第5章 名前の知らない感情は
「ほら。取りなさい」
じっと見つめるだけで、中々おにぎりを受け取ろうとしない私に炎柱様はズイッとおにぎりがたくさん入った風呂敷包みを近づけてくる。
「…ありがとうございます」
私がおにぎりを一つ手に取ったのを確認すると、炎柱様は自分の前に風呂敷包みを置いた。そして風呂敷包みの上に転がっている無数のおにぎりの中から2つを選び、両手に一つづつ持つと、まずは右手の方に持ったおにぎりパクリとかぶりついた。そして
「うまい!」
「…っ!」
炎柱様の大声が河原に響き、私は突然の大声に私の肩が大きく揺れた。
「っすまない!またしてもいつもの癖で!」
そう言って炎柱様は慌てた様子で私に向かって謝罪の言葉を述べた。
「…いいえ。大丈夫です」
その大声に確かに驚きはしたものの、それ以上に、とても嬉しそうに、そして美味しそうにおにぎりを頬張る炎柱様にことを、可愛らしい人だと思った。
そう思うようになってしまっていた。
「…聞いてもいいですか?」
私のその問いに、炎柱様はチラリと私の方を見遣り、ゴクリとおにぎりを飲み込んだ。
「あぁ、構わない。だが俺が荒山の質問にひとつ答えたら、君にも俺の質問にひとつ答えてもらおう」
確かに。私だけ聞くのは平等じゃない。
「わかりました。…炎柱様は、私の何にそんなに興味があるんですか?戦い方が変だからですか?音に敏感だからですか?」
炎柱様はその猛禽類のような瞳で私をジッと見た後再び正面に視線を移し、
「自分で言うのは些か恥ずかしくもあるが、俺は割と人に好かれる性分だ。それ故初めて荒山と任務で顔を合わせた際、あまりにも嫌悪を含んだ目で見られ驚いた!理由があるなら知りたいと思い興味が湧いた」
そう言って残りのおにぎりをパクリと一口で食べ
「美味い」
最初と比べかなり控えめな声で言った。