第5章 名前の知らない感情は
街の東側まで行き、目的の定食屋さんの扉をガラリと開けると
うわっはっはっは!
この街の住人と思われる人たちが、少し早めの酒盛りを始めていた。既に出来上がっている状態の人も数人おり、店の中は大きな声と笑い声で、まさに"うるさい"と言う言葉がぴったりな状態だった。
扉を開ける前から、ちょっとうるさそうだなとは思ってたけど…これは予想以上かも。
もし私ひとりであれば、こんなうるさいお店に入ろうとは思わない
。けれども今は炎柱様も一緒だ。そんな我儘は言ってられないし、言うべきでもない。
そう思い、私が扉を開いたまま、中に入らず止まっている炎柱様に
「入りましょうか」
と声を掛けた。けれども炎柱様は、その酒盛りしている集団をじーっと見つめたまま、扉の前から動く様子が見られない。
「…炎柱様?」
誰か知り合いでもいたのかな?
そんなことを考えながら、私は炎柱様に後ろから声を掛ける。すると炎柱様は、左後ろにいた私の方にグリンと顔を向け
「鈴音は外で待っていてくれ!」
そう言って、スルリと自分だけ店内へと入っていき、そのまま後ろ手に扉をガラリと閉めてしまった。
「…この状況…なに?」
1人取り残された私は、今の自分が置かれている状況がわからないまま、ぼーっと閉められた扉を見つめることしか出来なかった。
店の外でひとり取り残された私は、なかなか店内から出てこない炎柱様に、"もう帰ってしまおうかな"と、そんなことを思い始めていた。けれども
ガラッ
「待たせてすまない!」
風呂敷包を持った炎柱様がようやく店の外に出て来た。
何…その風呂敷包。店に入る前は…あんなもの持っていなかったのに。
私がそう思いながらじーっと炎柱様が左手に持っている風呂敷包みを見ていると
「では行こう!」
それだけ言って炎柱様はスタスタと歩き始めた。
「…えっ!?…ちょっ…あの…!?」