第5章 名前の知らない感情は
そんな気持ち悪く、巧妙な手段で人を攫っていた鬼だが、はっきり言ってしまえばそんなに強い鬼では無かった。
長く伸びた触手は毒か何かを持っていたようだが、呼吸の中でも早さに秀でる雷の呼吸を使う私には遅く感じたし、ましてや鬼殺隊最高位である炎柱様がそんな遅い動きの触手に当たるはずもない。
あっという間に炎柱様によって頸を切られた鬼は
”こんな使い難い身体じゃなければぁぁぁあ”
と悲しげに叫び、消えていった。
何だろう…すごく残念な鬼だったな。
そんなことを考えながら先ほどまで鬼がいた場所をぼんやりと見ていると
「荒山、この屋敷から人の気配は感じるだろうか?」
炎柱様が、ぐるりと周りを見回しながらそう尋ねてきた。
「人の気配…少し待ってください」
私はそう答え、鬼の気配がすっかりなくなった屋敷の気配を隈なく探ってみる。けれども
「…残念ですが、やはり人の気配はありません」
私がそう答えると、
「そうか。生存者がいなかったのは残念だが、鬼の頸を切り、今後発生していたかもしれない被害を未然に防げたことには変わりない。これもすべて荒山がその耳で鬼を見つけ出してくれたお陰だ!やはり君は凄い!俺もそんないい耳を持ってみたい!」
私の事を褒めてくれているようだった。けれども私は
「…そんなことはありません。私はこの耳、どちらかといえば好きではないので。戦いにおいては心強い味方ですけど」
気付くとそんなことを炎柱様に言っており
…っ私ったら…何正直に炎柱様に話してるんだろう。こんなこと、言う必要も、言うつもりもなかったのに…!
自分自身に驚いていた。そんな私を炎柱様は、じぃっと黙って見ている。その視線に居心地の悪さを感じた私は
「…なんでしょう?」
いかにも不機嫌な様子で尋ねてしまった。