第1章 始まりの雷鳴
「善逸はさ、私の心臓の音まで聞こえちゃうんだよね?」
「うん」
「私のはさ、善逸みたいに、先天的に持って生まれた能力じゃなくて…母親をね…父親から守りたくて身に着けた…特技みたいなものなの」
善逸は目を見開き驚いたの表情をしたものの、
「…そっか」
そう静かに呟き、それ以上聞いてくることはなかった。
「うん」
私には善逸の、その心遣いがとてもうれしかった。
「だからね、私はさ、善逸みたいに耳が凄くいいわけじゃなくて…何て言えばいいんだろう。音の種類って言うのかな…聞き分けるのが得意で、音の好き嫌いが激しいの」
「なにそれ…よくわかんないんだけど」
眉を顰めそう言う善逸に、
まぁそうだよね
と内心苦笑いが溢れる。
「えっと…例えば…今まで聞こえなかったのに、少しでも隙間風の音が聞こえるようになれば、あれを移動したんだなとか、ここに穴があいたんだな…とか。普段と違う音を”聴いて”、どこがおかしいとか、何が変わったとか判断するのが得意なの」
「…なんか、便利なんだかそうじゃないんだか、よくわからないね」
「そうなんだよねぇ。善逸も知っての通り、私スピードと判断力には自信があるんだけど…力が強くないからさ。一人で鬼が狩れるのか、今から心配なんだよね」
私がそう言うと、善逸はパッと表情を輝かせ
「あ!だったら姉ちゃんはずっと俺と一緒に行動すれば良いんじゃない!?そうだよ!そうしようよぉぉお!」
と、さも名案が浮かんだと言わんばかりの顔をしている。
「あのねぇ、そんなわがままが許されるわけがないでしょ!」
素っ頓狂な提案に呆れた私は、さぞかし変な顔をしているに違いない。
「まぁ兎に角…自分が嫌いなお耳がいい仲間として…これからも一緒に頑張ろう。善逸は私のたった一人の弟弟子だしね」
「あ!言ったね!俺絶っっっ対にその言葉忘れないから」
「うん。約束」
私が右手の小指を差し出すと、善逸も同じようにそれを差し出してくれる。
「「指きり!」」
この日を境に、私と善逸はこれまで以上に、姉弟子と弟弟子としての絆を深め、善逸は私にとって、桑島さんと同じくらい心から信頼できる相手となった。