第5章 名前の知らない感情は
立ち上がり、炎柱様を見上げながら必死にそう言う私に
「荒山の言葉を疑っている訳ではない。そんな顔をしなくても大丈夫だ」
炎柱様は私を落ち着かせるかのようにそう言った。
…そんな顔って…私、どんな顔してるんだろう
そんなことを考えていると、フッと炎柱様の右手が私の顔の右側まで伸びてきて
…っ何!?
思わず後ずさりそうになる。
「…っ」
私の顔の横に来た炎柱様の手が、私の耳に優しく触れ、その後、こめかみ辺りに場所を変え、同じように優しく触れる。
…何…何してるの?私は…何をされてるの…?
驚きのあまり動くことも、言葉を発することも出来ず、ただ目を見開きながら炎柱様の目をじっと見ていることしか出来ない。
そんな私の様子に全く気付いていないのか、気づいていても知らん顔をしているだけなのか
「土が付いてしまっている。あんなにも大胆に地面にに耳をつけるとは驚いた!」
その言葉に反し、ちっとも驚いているようには見えない顔で言った。
「うむ!綺麗になった!」
炎柱様は、満足いったのか、私のこめかみから手を放し、腕を組み”うんうん”と1人満足げに頷いている。土を払うために、炎柱様の手のひらが触れたいた部分が、やけに熱を持っている気がした。それを確かめる為に、自分の右耳にゆっくりと触れてみると、確かに何時もよりも熱くなっている。
…何…何なの…これ…?
「…炎柱様…安易に…女性に触れるのは…よく…ありません…よ…?」
動揺のあまり私の口から出てきたのは、言いたいことの半分にも満たないような、そんな言葉だけだった。炎柱様は私の言葉に、”どうしてそんなことを言われるのかわからない”と言わんばかりの表情を浮かべながら
「俺は安易に女性に触れたことはない!」
と言った。返ったきたその言葉に、私は未だに熱を持った部分を手で押さえながら
天然人たらしめ
そう心の中で文句を言うことしか出来なかった。