第5章 名前の知らない感情は
「あの物置小屋の…床下。すごく小さいけど、どこかにつながっている穴があると思うんです!普通だったら感じない空気の流れて行く音が土の中からします!」
「…成程。そこから自らが根城としている場所に、何らかの方法で人を誘いこんでいる可能性が高いのか」
「…恐らく。穴に耳を当ててみれば、場所の特定ができるかもしれません」
「そうか。持ち主を調べ中に入る許可をもらいたいところだが…時間が惜しい。こっそり入らせてもらうとしよう」
「そうですね」
炎柱様は、私の横を通り、物置小屋の入り口の前まで進み、鍵の壊されているその扉を開いた。そしてそのまま躊躇する様子もなく中に入っていく。私もそれに続き物置小屋の方に足を進め、入り口の前で立ち止まり、チラリと中を覗くと、炎柱様が古い電球に手を掛け明りを点けようとしているところだった。さっと中に入り、音をたてないように扉を閉めると、物置小屋の中は薄暗く、炎柱様の顔もやっと見える程度の明るさだった。
「炎柱様」
「なんだ」
「申し訳ないんですけど、私がいいって言うまで息を止めていてもらえますか?」
私のその奇妙とも思えるお願いを
「わかった」
炎柱様は驚くほどあっさりと受け入れてくれた。そのあっさり具合に驚いた私が
「…理由、聞かないんですか?」
そう尋ねると
「考えがあってそう言っているのだろう?ならば理由を聞く必要はない」
当然の事のようにそう言ってくれた。
その言葉は、炎柱様が私の事を信用してくれていることを示しているようで、私はそのことが”嬉しい”と、そう思ってしまっていた。
…この人が、どうしてあんなにもたくさんの人から好かれているのか…ちょっとわかってきた気がする。
私は炎柱様の目をじっと見上げ
「…ありがとうございます」
と自然と言っていた。炎柱様はどうして自分がお礼の言葉を述べられているのかいまいちわからないようで
「なぜ俺は礼を言われているんだろうか?」
私に問うてきた。私は、お礼を言った本人にそう尋ねてくる炎柱様の行動が可笑しくて
「…ふふっ…なんでもありません」
と笑いながら返事をしてしまうのだった。