第5章 名前の知らない感情は
炎柱様の元にたどり着き
「お待たせしました」
私が声をかけると
「そちらではなくこちらに来るといい」
「…っ」
そう言いながら私の腕を優しく引っ張り、炎柱様の背後から隣へと移動させられる。そんな炎柱様の行動に、目を丸く見開きながら私が固まっていると
「…っすまない!荒山はこういった俺の行動も苦手なんだったな!ついいつもの調子でやってしまった!大丈夫だろうか!?」
炎柱様が慌てた様子でそう言った。慌てる炎柱様の姿を目にするのは初めてのことで、私は驚くと同時に、振り回されてばかりいる自分が、初めてやり返せているようなそんな喜びにも似た気持ちを抱いていた。
それから
…どうしよう…嫌だって…思わなくなってる。
そんな戸惑いに似た気持ちが、私の胸をわずかに締め付けていた。
街を移動しながら気配を探ること半刻。
「…止まってください」
鬼の気配は感じないものの、微かな違和感を、街にある小さな物置小屋から感じた。
「何か感じたのか?」
「…はい。正直に言うと、確かな気配とかではないので…あまり自信がないんですけど」
違和感を感じるが、なぜ違和感を感じるのかはっきりとした理由が自分でもわからず、”もしかしたら間違いかもしれない”、と思うと、言うべきなのかどうか迷ってしまった。
「構わない。何を感じたのか教えてくれ」
「…わかりました」
私は、ゆっくりと物置小屋へと近づき、入り口の前で立ち止まった。そして目を瞑り、その物置小屋の中を探ることに神経を集中させる。
…虫と…小動物…ねずみかな?…あとは…生き物の気配はない。だからここに鬼がいるわけじゃない…でも…何だろう…あ、そうだ。音。変な音が…そう、地面からする。どこかに…繋がっているような…そんな空気の流れを…感じるんだ。
私は目を開き、自分の斜め左後ろに立っている炎柱さまの方に振り返った。