第5章 名前の知らない感情は
けれども、笑いを堪えていることは明白なのに
「いいや!そんなことはない!」
炎柱様から返ってきたのは、そんな言葉だった。
いやいや無理があるでしょう。明らかに笑っているし。いや、いつも口角がきゅっと上がってて笑ってるような感じに見えてるけど…今のそれはいつも以上にちゃんと笑顔だし。
「…私のこと…馬鹿にしているんでしょうか…?」
可愛げのない私が導き出せるのは、そんな捻くれた答えだけだ。
炎柱様は眉間に皺を寄せそう尋ねる私の様子を一切気にする様子もなく
「そんなことはない!」
と真っ向から否定する。
じゃあなんだって言うのよ…。
今度は決して口に出さないようにしながらそんなことを考えていると
「前回も感じた事だが、俺は畏まった君よりもそうして感情を露にしてくれる君の方が好ましく思う!立場など気にせず宇髄と同じように接して欲しい!」
そんな風に言われてしまい
「…っでも…」
私は大きな戸惑いを感じてしまう。
しかも炎柱様は、
「うむ!これで話は終いだ!手がかりを探しに街をまわろう!」
「…えっ…ちょ…」
ずんずんと歩き始めてしまった。
「色々…置いてけぼりなんですけど…」
そんなことを呟いていると
「早くこちらに来るといい!君が来てくれないと、俺では役不足だ!」
と、くるりと首だけこちらに振り返った炎柱様に言われ
「…っ今行きます!」
私は慌ててその後を追った。
街に向かっているときも感じたことなのだが、前回の任務の時は、炎柱様の背中を追いかける足取りは、必要以上に重いような気がしてならなかった。けれども、今日この街まで向かってくる時の足取り、そして今、私のことを待っている炎柱様の元へと向かう足取りは明らかに軽くなってしまっていた。
……そんなわけない。
私は懸命に自分にそう言い聞かせていた。