第5章 名前の知らない感情は
「ここから私が探れる範囲では特段おかしなところはありません。人やお店、生活音が結構するので、確実に探ろうとすると、街全体の気配を探るのには時間がかかってしまいそうで…手分けして探りますか?」
じっと私のことを見ている炎柱様に向け、私はそう尋ねた。
「いや。一度俺一人で街全体を見回り、探ってはみたのだが、時たま鬼の気配を感じることは出来ただけで、その姿を捉えることも、根城を掴むことも出来なかった。柱として不甲斐ない」
炎柱様はその”不甲斐ない”という言葉の通り、私の目を見ていた視線を下げながらそう言った。
「…炎柱様でも…そんな風に…自分を不甲斐ないなんて思うこと…あるんだ…」
「俺とて一人の人間だ。自分自身に不甲斐なさを感じることは当然ある!」
「…っ!」
心の中で呟いたつもりだったが、何故かそれに応えるような言葉が返ってきた。パッと自分の口を両手で塞いだものの、そんなのは後の祭り。恐る恐るそこから手を離し
「すみませんっ!私ったら……言葉に、出てしまっていましたか…?」
私は炎柱様にそう尋ねた。そんな私の様子に炎柱様は、首を少し傾げ、不思議そうな顔をしながら
「うむ。”炎柱様でもそんな風に自分を不甲斐ないなんて思うことあるんだ”、とはっきりそう言っていた!」
私が無意識に発していた言葉を、一語一句間違えずに繰り返した。
「っ失礼を言ってすみません!あまりにも…意外で…っその…っ…失礼なことを言ってしまい…申し訳ありませんでした!」
そう言いながら私が、慌てて頭を下げるも
「気にする必要はない。…だがもし気にするのであれば、前回俺をあそこに置き去りにして帰ってしまったことを、是非とも気にしてもらいたい!」
「…っ」
そんな風に言われてしまい、今度は慌てて頭を上げ、炎柱様の顔を見上げながら
「…っだって!あれはその…つい…炎柱様が…」
もごもごと言い訳をし、視線も左右に忙しなく揺れてしまう。
…どうしよう…やっぱり怒ってるよね…。
不安に思いながらちらりと炎柱様の顔を伺いみると
「……何を笑っているんでしょうか…?」
笑いを堪えているような炎柱様の表情が、私の目に飛び込んできた。