第5章 名前の知らない感情は
「ここが今回の任務地か」
小休憩を挟みながら一刻ほど走り続け、炎柱様と私は目的の街にたどり着いた。
けれども街の中には入らず、その入り口で一度立ち止まり、まずはこれから何をするか判断をするため、隠が事前にまとめていてくれた報告書に目を通す。
「やはり有力な情報はほとんどないな」
「…そうですね。人が消えているってだけで、年齢、性別、バラバラで統一感もありませんし、被害者の居住区もバラバラなようです」
「…そうだな」
炎柱様は口角をきゅっと上げ、ほんのりと微笑んで見えるような表情を浮かべ
むぅ
と言い腕を組んでいる。
「…そんなに広い範囲は探れないので役に立つかわかりませんが、一度街に入って私が探ってみても良いでしょうか?」
私が炎柱様にそう提案すると
「そうだな。無駄に時間をかける必要もないだろう。むしろ、それが目的で君を指名したのだからな!頼もう!」
炎柱様がそう言ってくれたので
「…お任せください」
"頼られて嬉しいかも"
そう思う気持ちを隠し、いつもの調子で私は答えた。
「では街に入るとしよう」
「はい」
ズンズンと街に踏み入っていく炎柱様の後に続き、私も街の中へと足を踏み入れた。
見た限りでは、街は鬼が潜んでいるとは思えない程穏やかで、一見おかしな部分なんて見当たらないようにも思えた。
「…では、少しお待ちください」
「あいわかった!」
炎柱様のその答えを聞き終えた私は、聞く耳から聴く耳に切り替え、まずは
ふぅぅぅう
と身体の中に留まってる空気を全て追い出すように息を吐く。そしてそれを終えると今度は、
すぅぅぅう
と大きく息を吸い、
響の呼吸参ノ型…音響明智!
目を瞑り、現状況で気配を探れる範囲の全ての気配を探った。
……人、虫、小動物、食べ物に…植物…
鬼の気配は…今探れる範囲には…ない
特に…おかしなところも…ない
異常のないことを確認し、パッと目を開け、少し離れた場所で私の様子を見守っていた炎柱様方へと身体の向きを変える。