第5章 名前の知らない感情は
待ち合わせ場所に行くと、そこには既に炎柱様の姿があった。
…まずい!炎柱様よりも先につけるように早く出たつもりだったのに…!もういるなんて、早すぎでしょう!
そんなことを考えながら少しでも早く着けるようにと走る速度を上げた。
遠目に見える炎柱様のお姿は、木の幹に背を預け、腕を組み、目を瞑っている。その姿はひどく様になっており、まるで何かの物語の一部を切り取ったのではないかと思ってしまうほどだった。
あともう少しで炎柱様の元に着くと言うところまで近づいたその時、パチリとその猛禽類のような目を開いた炎柱様と私の目がパチリと合った。
…っ急がないと。
私は走る速度を更に上げ、炎柱様の元にたどり着くや否や
「遅くなってしまい申し訳ありません!」
頭が膝についてしまうほどの角度をつけ謝罪を述べた。けれどもそんな私に向かって炎柱様は
「いいや。俺が早く来すぎた!謝る必要はない。顔を上げてくれ」
落ち着いた、そして初めて聞く優しげな声色でそう言った。私はその様子に、なんとも言えない違和感を感じていた。
下げていた頭をあげ、違和感の正体を探すために炎柱様の顔を伺い見る。
「どうかしたか?」
そう言って私の目を覗き込んできた炎柱様に、私はようやく自分が感じた違和感の正体に気がついた。
炎柱様の声…前回の任務の時に比べると…小さいんだ。それに私の目線に合わせて…わざわざ屈んでくれてるのかな…?膝…曲がってるんだけど。
私の目線に合わせて折られた膝。頭に響くほど大きかったのが嘘のように抑えられた声。感じた違和感の正体は、こんなにも明らかなのに、どうしてすぐ気がつくことが出来なかったのか、自分でも不思議で堪らなかった。
「…膝…辛くはないですか?」
炎柱様程の長身の持ち主が、私に目線に合わせて屈もうとすれば、普通の人間であったら辛い姿勢のはずだ。
それなのに、
「こんなものどうってことはない!それよりも、これならば君は、俺が怖いと思わずに済むだろうか?」
私の投げかけた言葉に対して返ってきた炎柱様の言葉は、私を気遣う言葉だった。