第5章 名前の知らない感情は
そう元気に返事をしていた須磨さんだったが、手で口を覆い、大きなあくびを一度すると
「……流石に眠くなって来ちゃいました」
そう言って須磨さんは目をゴシゴシと擦った。私もそんな須磨さんの姿に釣られ、急激に眠気に襲われる。
「…そう…ですね。…そろそろ…寝ましょうか」
そう言いながら、掛け布団を整え、しっかりとそれにくるまる。
眠りの世界に半分足を突っ込みながら思ったのは、ついこの間も頭に浮かんできた、”このままずっと、こうして雛鶴さん、まきをさん、須磨さんと一緒にいられたらな”、という酷く子どもじみた考えだった。
けれども私は、ただの"天元さんに稽古をつけてもらっている隊士"という立場に過ぎない(継子と呼んでもらうことも、今の私の実力では烏滸がましい)。ただの居候であり、4人の愛の巣にお邪魔しているよそ者の私が、そんなことを願うのは、明らかに見当違いだ。
そしてもう一つ。じぃちゃんと善逸と暮らしていたあの家も、自分の家のように安らげて、そこに帰りたいと思える私の大切な場所ではある。けれどもあの場所も、鬼殺隊士になりたいと望む者を育てるため場所であり、私だけの場所ではない。
私だけの特別な居場所が…いつか出来るのかな。
そんなことを考えていると
「…っは!私今、一瞬眠っていました!…ダメです!やっぱりもう限界です!…明日の煉獄様との任務が終わったら…また、話…聞かせてください…ね…」
眠そうな声で須磨さんにそう言われ
「はい…是非…聞いてください…ね…」
私はそう返事をし
「おやすみなさい…鈴音ちゃん」
「おやすみなさい…須磨さん」
おやすみの挨拶を交わし、須磨さんと同じく限界を迎えた私の意識は、眠りの世界へと完全に落ちていった。
そのまま目覚めることもなくスッキリと朝を迎え、須磨さんと”おはようございます”の挨拶を交わし、いつの間にか見廻りから戻っていた天元さんも含めた5人で朝食をとり、私は今回の”特別任務”へと出発した。