第5章 名前の知らない感情は
顔だけ須磨さんの方に向けていた私も、須磨さんと同じように身体全体を内側に向け、須磨さんと身体ごと向かい合った。
「…どうして、天元さんに嫁ぎたいと…思ったんですか?」
恐る恐るそう尋ねた私に、須磨さんはキョトンとした表情を見せた後、ニッコリと花のように可愛らしい笑みを浮かべ
「理由なんてわかりません。でも、どうしてもこの人のお嫁さんになりたいって、天元さんに初めて会った時に思ったんです!天元さんに初めて会った時のあの心が喜ぶ感じ!私は絶対に、何があっても忘れません!」
そう言った。
私には、天元さんと初めて会った時のことを思い出しながらそう言う須磨さんの笑顔が、今までで1番、最高に可愛く見え、同時にそんなふうに誰かのことを真っ直ぐと想い慕うことが出来るその心の強さが羨ましいと思った。
「…須磨さん…素敵です」
「やだぁ!鈴音ちゃんってばそんなこと言っても何もでませんからね」
「もう!そんなつもりありません。……私も、そんな風に、誰かを…思える強さが…持てるようになりたいです」
その言葉を言いながら、一瞬頭に浮かんできたのは、私の心をひどく乱した、声が大きくて、おかしな距離感を持つあの人の後ろ姿。
…何で…今…炎柱様のこと…思い出すんだろう。
そんなことを考えている私に須磨さんが掛けてくれた言葉は
「その日が来るのは、案外近いかもしれませんよ!私はそう思います!あんまり余計なこと言わないようにって雛鶴さんとまきをさんに言われちゃっているので…これ以上は言えませんけど!」
意味ありげなそんな言葉だった。
「…そう…なんですかね…」
「はい!」