第5章 名前の知らない感情は
ぱっと頭に浮かんできた案に、私の口角がきゅっと上がる。
「それじゃあ須磨さん、今日は私と一緒に離れで寝ませんか?」
まきをさんと揉み合っている須磨さんの顔を覗き込みながら私がそう言うと、須磨さんはギュインと音が聞こえて来そうな勢いで私の方に顔を向け
「寝ます!鈴音ちゃんのお布団で!一緒に!」
間髪入れずそう答えた。
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「狭いですね、鈴音ちゃん」
「ふふっそうですね、須磨さん」
いつもは1人で入っている布団に須磨さんと2人で寝転び、天井を見ながらそんな意味のないことを言い合う(せめて掛け布団は別にしなさいと雛鶴さんに諭され須磨さんは仕方なしに自分の掛け布団を持参した)。けれどもこんな風に誰かと一つの布団で眠りにつくのが初めての私には、その狭さがとても嬉しく思えた。
「…眠れそうですか?」
私がそう尋ねると
「今のところ、目はギンギンです!」
須磨さんはこれから寝入ろうとしているとは到底思えない声色でそう答えた。
「…私も…です」
こうして夜に、須磨さんと2人きりになるのは初めてのことで、私はずっと聞いてみたいと思いながらも聞けずにいた事を聞いてみたいと思った。
「…須磨さん…」
「なんです鈴音ちゃん?」
「…須磨さんの…初恋の相手って…やっぱり天元さんですか?」
私がそう須磨さんに尋ねると、天井を向いていた須磨さんの身体がグルリとこちらの方に向き直った。
「…初恋かどうかって聞かれてしまうとちょっとわかりません。でも、私の妹が天元様のお嫁さん候補になったって聞いたとき…居ても立っても居られなくなりました。それで、どうしても自分が天元様のお嫁さんになるんだって騒いで、その権利を見事もぎ取ったというわけです!」
「…須磨さんじゃなくて…妹さんが嫁ぐ予定だったんですか?」
「はい!私、こんなんじゃないですか?妹の方が、私よりも断然くノ一としても、女としても優秀だったんです。でも、私は、何がなんでも天元さんの奥さんになりたかったんです!」
須磨さんはいつもと同じ、ニコニコとした人懐っこい笑みを浮かべながらそう言っていたが、一方で私は少し切ないような、そんな複雑な気持ちになっていた。