第5章 名前の知らない感情は
その日の夜。
天元さんは、いつもの通り暗くなる前に見廻りへと出て行った。私もそれに着いて行こうとしたのだが、"明日は早くからの任務だ。今日は嫁達とゆっくりしてろ"、と驚く程優しい言葉を掛けられ目が飛び出しそうになった。甘えてしまっても良いのだろうか、と悩みはしたが、これからもしかしたら、そんな風に出来る時間も取れなくなってしまうかもしれないと考えると、素直にその行為に甘えさせてもらうことにした。
「鈴音ちゃん、明日はまた炎柱様との任務なんですよね?」
「そうなんです。何故か、またしても…」
不安な気持ちを誤魔化すために、日中まきをさんと須磨さんが調達しに行っていた天元さん御用達の酒造で作っている甘酒をひと口口に含んだ。
「ん。美味しい」
「甘酒はお肌にも良いものね。寝つきも良くなるから、きっと今夜はよく眠れるわ」
「それで、明日は一体どんな任務なんだい?」
「なんか、また気配を探る系の任務みたいです」
「最近そういう鬼が流行ってるんですか?」
「本当にそうですよね。果たして本当に私の能力が必要なのかどうか…疑問なところです」
「なんでも、炎柱様が直々に、鈴音を御指名してきたみたいよ」
ニコニコと笑いながらそう言う雛鶴さんに
「え!?そうなんですか!?炎柱様…そんなに鈴音ちゃんと一緒にご飯食べに行きたいんですかね?」
須磨さんは、目をキラキラさせ興奮気味にそう言った。
「そう言えば、前回そんな約束させられたって言ってたねぇ。炎柱様ってお固そうに見えて、案外公私混同する人なんだね」
座卓に肘をつき、炎柱様の姿を思い出してでもいるのか、まきをさんは斜め上の方を見ながらそう言った。
「…私には…あの人の考えている事はよくわかりません。でも今回も、ただ単に、任務を早く済ませたいだけなんだと思います…」
そう思わないと…どんな顔をしていいか…わからないし。
白く濁った甘酒を見つめ、私はぼんやりと炎柱様のことを考える。