第5章 名前の知らない感情は
「それだよそれ」
「…"それ"って言われても…なんです?"それ"って…」
私がそう尋ねると天元さんは、私の、座卓の下に隠れている膝の辺りを指差した。そして
「隊服。左手で握りしめてんだろ。それ、お前が考え事してる時の癖」
「…私の…癖…?」
そんな事を言った。
天元様に言われ、自分の左手を見ると、確かに隊服のズボンをギュッと握りしめていた。
嘘…自分のこんな子どもっぽい癖…初めて知った。
はずかしくなり、私はパッとズボンから手を離す。
「荒山、お前はもっと、自分のことを、そしてお前の周りにいる男の事を知れ。この間話したこと、覚えてるだろう?」
思い当たることは、ひとつだけ。
「…炎柱様との…食事の件…ですよね?」
「そうだ。もし今回も逃げ帰ってくるようなことがあれば…しばらくこの家には、立ち入り禁止だ?」
「っそんな!ひどいです!それじゃあ雛鶴さん、まきをさん、須磨さんに会えないじゃないですか!」
「お前…俺はどうでも良いのかよ。ったく相変わらずなやつだな」
天元さんは心底げんなりした顔で私を見ている。
「…でもでも、炎柱様がまた私を食事に誘ってくれるとは、限らないですよね?」
「んなことねぇよ。お前、煉獄と次は食事に行くって約束してんだろ?この俺様が、それを知らねぇとでも思ったか?」
「……残念ながら、ご存じなようですね」
炎柱様め、余計なことを…。
内心そう思いながら、天元さんから目を逸らし、そうボソリと呟いた。
「とにかくそう言うことだ!俺の継子として派手に任務をこなして、女を上げてこい!」
「っ痛!」
そう言って天元さんは私の背中をバシンと容赦なくその手のひらで叩いた。
「派手派手な祭りの神、宇髄天元様の継子が、いつまでもイモ女であることが許せるはずがねぇ!」
「…イモ…女…?」
え?私イモだったの?
イモに見えてたの?
初耳なんですけどぉ。