第4章 雪解け始まる微かな気配
天元さんの後を追って辿り着いたのは、縁側だった。
「よっこらせと。ほら。お前はここに座れ」
そう言いながら天元さんは、自分の隣をポンポンと叩く。
「…失礼します」
私がそう声をかけながら座ると、
「やめろや気持ち悪ぃ」
苦虫を噛み潰したような顔でそう言われてしまった。
「で、お前はどうして煉獄と飯食って来なかった。誘われはしたんだろう?」
天元さんにじっと目を見られながらそう尋ねられる。私はその視線が居た堪れず、スッと目を逸らしてしまった。
「…行く必要がないと思ったからです」
ボソリと返事をする。
「お前なぁ…結局何も変わってねぇじゃねえかよ。変わりてぇって言ってただろ?だったらちったぁ行動に移せ。人間ってのはな、思ってるだけで変われるほど簡単な生き物じゃぁねぇんだよ。慣れろ!俺の可愛い嫁達に、いつまでも余計な心配かけんな」
「それは…そうなんですけど…」
「歯切れの悪ぃ返事しやがって。あんまりウジウジしてっと、この邸から追い出しちまうからな」
私の煮え切らない様子に苛立ちを感じたのか、天元さんが今日は髪をしばっていない頭をガリガリと掻きながらそう言った。
「…っそれは嫌です!お願いですから…私を…追い出さないで下さい」
思い出されるのは、最低限の荷物を風呂敷に包み、投げるように私に渡してきた父と継母の姿。大嫌いな父と継母の元から出て行けたことは、清々した。けれども、生まれた時から自分が過ごしてきた場所をあのような形で奪われた事は、とても辛かった。例えそこが、辛い思いばかりをしてきた場所だとしても。幸せな思い出が、全くなかったわけではなかったから。
やだやだ。私…まだここに居たい。天元さんにもっと色々なことを教えてほしい。雛鶴さんやまきをさんや須磨さんとたくさんお喋りしたい。いつか…恋愛相談だって、出来るようになりたい。
縋るように天元さんの顔を見上げると、天元さんかじーっと探るように私の目を覗き込む。