第1章 始まりの雷鳴
自分が発する音を聴かれて、様子を窺われているなんて、自分がされたら絶対にいい気分がする筈がない。だから私は、そのことをずっと隠していた。けれども、あまりにも善逸と話しているのが自然すぎて思わず口走ってしまった。
急に押し黙ってしまった私の顔を善逸がのぞき込み
「…ずっと思ってたんだけどさ、姉ちゃん、もしかして人よりも耳がよかったりしない?」
真剣な顔でそう問われる。
「…っどうして…それを…」
まさか善逸にそんなことを聞かれるとは夢にも思わず、私は目を大きく見開き善逸の顔をじっと見返す。
善逸は左右に瞳を揺らし、何か考えるそぶりを見せた後
「俺さ、自分でもなんでかよく知らないけど、人よりも耳が異常に良くって…」
「…え?」
噓でしょう?
驚きすぎて、その言葉は声にすらならなかった。
「俺にとってはそれが普通で、でもある時そうじゃないんだって気づいて。たぶんさ、俺が親に捨てられたのってこの耳が原因なのかなぁって。だって気持ち悪いでしょ?寝てても会話が聞こえちゃうんだよ?そんなやつと誰だって一緒にいたくないでしょ」
「…聞こえないようにすることは、出来ないの?」
「出来ると言えば出来るかな。普通に生きているだけで周りには色んな音が出てるでしょ?それを全部拾おうとすれば、自然と処理するのは難しくなるかな。だからそういう時はあえて全部拾うようにしてる。まぁ夜とか静かな場所だとどうしようもないんだけどね。…姉ちゃんなら…わかる…よね?」
そう言って不安げな表情で私の目を見る善逸を安心させてあげたいと思い、
「…うん。すごく、わかるよ」
まるで幼い子どもをなだめるかのような声色でそう答えた。
善逸は私の言葉を聞き、ふぅと安心したかのように大きなため息をつく。
「でも…どうして私が人よりも耳がいいって…厳密に言えば私は耳がいいってわけじゃないんだけど…どうしてわかったの?」
善逸は私のその問いにどう答えようか迷っているのか、しばらく地面を見つめじっと考えている様子だった。
けれども、その後遠慮がちに私の顔を見ると
「姉ちゃんさ、獪岳のこと、苦手でしょ?」
「…っ!」
そう尋ねてきた。