第1章 始まりの雷鳴
「自分のことがすごく嫌いで、出来るもんなら今すぐみんなから愛されるようないい男に生まれ変わりたい。…でも、じいちゃんが、そんな駄目な俺でも、誰かの為に何かが出来る力つけてくれた。だから、俺はその期待に応えたい」
親に捨てられたところも、自分が嫌いなところも、自分の居場所を探していたところも全部、私と…一緒だったんだ。
「…っこんなつまんない話聞きたくないよね!せっかく二人で話せるんだからもっと楽しい話しようよ」
私は、自分の膝に置いていた右手を伸ばし、
「え!?なになに!?」
顔を赤らめ興奮気味にそう言っている善逸の右手をぎゅっと握った。
「急に恥ずかしいんだけどぉ!どうした「私も同じなの」」
善逸は私のその言葉に、スッと真剣な表情になる。
「私も…事情はちょっと違うけど親に捨てられたの。自分が嫌いで、自信なんか少しもなくて…桑島さんに拾ってもらえなかったら自分がいる価値なんてないって、生きて行くことすらやめていたと思う」
そう言った私の手に、善逸の空いている方の手が優しく重ねられる。
「でも今は違う。桑島さんの為に、苦しんでいる人たちの為に、…自分の為に、私は人を苦しめる鬼と戦う強い剣士になりたい」
しばしの沈黙の後、
「そっか。俺、姉ちゃんのこと応援してる」
善逸がそう言った。
「ちょっと待って。そこは普通、”俺も強くなる”っていうところじゃない?」
私は思わず、眉間に皺を寄せながら善逸の顔をジッと見る。
「わかってるよ!わかってるんだけどさぁ…。俺、ちゃんとした剣士になれるのかなぁ…?だって俺、どんなに頑張っても壱ノ型しか使えないんだよ?」
善逸はそう言ってガッカリと項垂れる。
「…でもさ、善逸の壱ノ型、私や獪岳が出すのと…なんて言うのかな、質が違うんだよ…」
「質?何それ?」
「音の深みって言うの?私も善逸みたいに質の良い型を出したいと思ってこの間、善逸の壱ノ型の音を聴いた…」
不味い。
そう思い、私は善逸の手と重なり合っていた手をスッと戻し、自身の口を塞ぐ。けれどそんなのは後の祭りだ。
私は、この"聴ける"耳のことを桑島さんにしか話していない。獪岳はもちろんのこと、善逸にも、その事は話していなかった。