第4章 雪解け始まる微かな気配
もうすぐ店の入り口というところでクルリと振り返った女の子は、
「…お姉さん」
「どうしたの?」
「また…あの素敵なお兄さんとお団子食べに来てくれる?」
先ほどまでの元気な様子とは異なり、私の反応を窺うようにそう尋ねてきた。
そんな機会は、もうこの先ないと思うんだけど…
そう思いながらも、目の前で悲しげにそう問いかけてくるこの女の子をがっかりさせることなんて私には出来るはずもなく
「うん。近くに来ることがあったら、また来るから。またたくさん美味しいお団子食べさせてね?」
私がそう言いながら女の子に微笑みかけると
「…っうん!その時までに、私、お団子作れるように練習しておくから!楽しみにまってるね!」
女の子は満面の笑みを浮かべながらそう言い、お店の中へと消えていった。
…そんな日が、来ることはないんだけど。
”ごめんね”と心の中で謝る私に、
「…本当に娘がすみません」
店員さんことお母さんは、頭を下げながら私に謝罪を述べた。
「さっきも言いましたが、謝る必要はないんです。詳しくは言えないんですけど、”恋仲同士”に見えるようにってことで、今回あの人と一緒にいたので…ある意味大成功です!」
そう言って私が笑いかけると、
「…あなたの笑顔はとっても可愛らしいですね…」
店員さんはぼそりとそう呟きながら、娘さんを捕獲するためにと外の長椅子に置たお団子の袋を手に取った。
「お待たせしました!今日2回も来てくれたお礼に、お団子各1本ずつ多く入れてあります」
そう言って差し出された袋を受け取りながら
「え…?でも…良いんですか?」
私がそう尋ねると、
「はい!むしろ困らせてしまったお礼に、もっと差し上げたいくらいなんですけど…」
そう言われてしまったので
「あ!だめですよ!過剰なおまけは、商いに響きます!少し困ったことは事実ですが…それとこれとは別問題です!…また買いに来させてもらいますので、その時にまた美味しいお団子を食べさせてくださいね」
私は店員さんがこれ以上気にしないよう、おどけるようにしながらそう答えたのだった。