第4章 雪解け始まる微かな気配
自分がいったい何を言うべきなのか、なにをするべきなのか、まったくと言っていいほど良い案が浮かばない私は、とりあえず作り笑いを浮かべ、この目の前の親子のかわいいやり取りを見守ることにした。
店員さんはコホンと一度咳ばらいをした。
「…実はさっきあなたたちがお帰りになってから、とってもお似合いな二人だったわねって…娘とずっと話していたんです。しかもさっきは…お仕事用の服だったのかしら?今度は素敵に着飾っているあなたを見て、今度は違ったお二人が見れるのねって…私も内心喜んでいたんです。だから私も娘を注意できる立場ではありません…」
とても申し訳なさそうに言った店員さんのその言葉に、自分が知らぬ間に、この可愛らしいとも言える親子を、とんでもなく期待させていたんだなぁと気づかされる。なんなら、何も悪い事はしていないはずなのに、罪悪感のような気持ちすら湧いて来る。
「…さっきの人は、仕事上の付き合いがあるだけで、残念ですが個人的な関係性は全くないんです」
自分で言った”残念ですが”という言葉が、やけに胸につかえた気がした。
「…んむっ!そうなの?でも、私にはとっても仲良しに見えたよ?」
口を塞いでいたお母さんの手をグイっと引きはがした女の子が、首を傾げ、私の顔をじっと見ながらそう尋ねてきた。
「違うの。ただの上官と部下…ってわかるかな?」
「…なんとなく。でもでも!私、お姉さんとお兄さんは絶対に、絶対にお似合いだと思うの!私わかるの!」
炎柱様と私がお似合い…?そんな訳無いのに。この子は…なにを根拠にそんなことを思うんだろう?
その根拠を聞きたいと思った。けれども
…聞いたって意味ないよ。聞く意味も…ないし。
そんな風に自問自答していると、
「ほら!あなたはもういい加減にしなさい!頼んでおいたお掃除は終わったの?」
お母さんがそう諭すように声を掛ける。
「…終わってない」
「でしょう?ほら早くやってきて頂戴」
「…はぁい」
女の子はちょっぴりむくれたような表情を作りながらも、お母さんの言葉に従い、すっかりぐちゃくちゃになってしまった布巾を手に、店内へ、とぼとぼと戻って行った。