第4章 雪解け始まる微かな気配
なんと言ったらわかってもらえるのかと思案していると、
「こら!あなたって子は!お客様を困らせたらダメでしょう!」
「母様!」
私の頼んだお団子を包み終えた店員さん、つまり女の子のお母さんがお店の中から出てきてくれた。
…助かったぁ…!
この状況に困り果てていた私には、女の子を止めに来てくれた店員さんのその姿が、まるで天からの助けのように思えてしまった。
お母さんは私の方に駆け寄ってきた。そして私の前で立ち止まると
「娘がとんでもない失礼を言っていたようで…申し訳ありません」
そう言って頭を下げた。
「…そんな!別に頭を下げてもらうようなことでもありませんし!」
「お恥ずかしいんですが、この子ったらこの間家族で見に行ったお芝居にものすごく影響を受けてしまったみたいで…恋や愛に興味深々になってしまったんです」
そう言いながら店員さんは、私の正面にいた女の子の手を引き、その小さな体を抱え込むようにして後ろから捕獲した。
「だって母様!あのお芝居でも、恋仲だっていう男の人と女の人がうちみたいな甘味屋さんで仲良くお団子を食べていたじゃない!だからこのかわいいお姉さんとあの素敵なお兄さんだってそうなんでしょ?母様だってお姉さんとお兄さんが帰った時にそう言ってムグッ!」
店員さんはこれ以上余計なことを言わせまいと、その女の子のおしゃべりでかわいいお口に手のひらをかぶせた。
「男の人と女の人が甘味屋さんで待ち合わせしてたからってね、恋仲だって決まっているわけではないの!もう!お母さん恥ずかしい!お願いだからあなたはもうこれ以上喋らないで頂戴」
お母さんは顔を真っ赤にしながら、私に聞こえないようにと、女の子の耳元でそう言っているようだった。けれども残念ながら、その声量では、聴く耳に切り替えるまでもなく、私には全てしっかり聞こえてしまう。
この店員さん…ちょっと天然さんなのかな。
お団子を買いに来ただけなのに、何故私は、こんなにもいたたまれない気持ちになっているのか。是非とも誰か教えて欲しい。