第4章 雪解け始まる微かな気配
「さっきの…不思議な髪の毛の優しい男の人は…一緒じゃないの…?」
女の子は眉の両端を下げ、私にそれはもう悲しげな様子でそう訪ねてきた。
…なるほど。炎柱様を探していたわけね。
ようやく女の子の行動の意味を理解した私は、女の子の目線と自分の目線の高さが合うように膝を曲げ
「ごめんね。今回は私ひとりなの」
苦笑いになってしまいそうになるのを懸命に堪えながらそう答える。
「そっかぁ…」
女の子は視線を下に落とし、そう悲しげにそう呟いた。
けれどもその後、パッと視線を上げ、私と目が合うと
「どうして一緒にいないの?お兄さんとけんかでもしちゃったの?だめよ?夫婦とか、恋人っていうのは、けんかをしたらきちんと話しをしなきゃって母様が言っていたの!」
何を勘違いしているのか、女の子は布巾をブンブンと大きく振りながら私に向けそんな事を言ってきた。私は慌てて
「…っ違うよ違う!私と炎柱…煉獄様はそんな恋人同士とかじゃないから!」
すぐさまその勘違いを正そうと試みた。
「え?違うの?じゃあどうして、お姉さんはあのお兄さんと待ち合わせをしていたの?あいびき…?っていう奴じゃないの?」
"逢引"
その私にとっては強烈な言葉に、ボッと頬が急激に熱くなった。
「ほらぁ!お姉ちゃんそんなにほっぺた赤くして!やっぱりあの男の人と恋人同士なんでしょう?」
そう言いながら女の子は瞳をキラキラと輝かせ、
「いいなぁいいなぁ…私も大きくなったら、あんなすてきな男の人に好きになってもらいたいなぁ…」
大きくなった自分と、まだ見ぬ相手の逢引場面でも想像しているのか、ほぅ…と恍惚の表情を浮かべている。
ダメだ…!全然話を聞いてもらえない!というか、この子…口調の割に随分とおませさん過ぎでしょ…!
いい大人と言える年齢で、逢引という言葉に頬を染めた私が悪いと言う事は十分に理解している。けれども、
「お姉さんは、あの人のどこが好きなの?かっこいいところ?優しいところ?あの太陽みたいにキラキラした笑顔?」
「…違う!違うんだってば!」
あまりのその女の子の勢いに、私は完全に押し負けてしまってしまっていた。