第4章 雪解け始まる微かな気配
周りを田んぼに囲まれた道を歩いていると、カエルの鳴き声や小鳥の囀り、そしてカサカサとこすれ合うまだ背の低い稲の音が聴こえてくる。その音を聴いていると、先ほど炎柱様に対して抱いていたイライラとした気持ちや、私の胸を騒つかせる、正体のわからない揺らぎが、すーっと落ち着いて行くようだった。
けれども、穏やかな気持ちで今回の任務での出来事を振り返ってみると、任務に当たる前と、終えた後では炎柱様に対する私の感情が確実に変化していることに嫌でも気が付かされる。
炎柱様…声は相変わらずうるさくて距離感はかなり狂ってるし…圧はおかしいけど…やっぱり嫌な人なんかじゃなかった。むしろ私が勝手に思い描いていた人柄と…全然違う。優しくて、面倒見がよくて、…凄く素敵な人だった。
認めざるを得ないその事実に、誰かと勝負をしているわけでもないのに、惨敗したような、そんな気さえしていた。そして、今回何度も感じてしまったあの心の揺り動きの正体を知りたいような知りたくないような、そんな矛盾した気持ちに襲われていた。
ただ、私の中ではっきりとわかっていることが一つだけある。
出来ればもう、炎柱様と一緒に任務に就きたくない。炎柱様といると、心が乱されていつもの自分じゃいられなくなる。そんなの…全然私らしくない。
そんなことを考えながら黙々と歩いていると、目的の甘味屋まであっという間にたどり着いた。まだ外にのぼりが出ており、それがまだ、お店が開いていることを示している。
よかったまだやってる。邸に戻って、雛鶴さんまきをさん須磨さんと一緒に美味しいものを食べながらお喋りするんだもん。
そんなことを考えていると、自然と広角が上がってしまった。
待ち合わせの時は顔だけお邪魔させてもらった店内に、今度はきちんと入らせてもらい
「すみません。お土産用にお団子をいくつか買いたいんですけど、なにか残ってますか?」
私がそう店員さんに訪ねると
「はい!お団子でしたら餡子、みたらし、きな粉すべてご用意可能です」
そう言って女性は作業をしていた手を止め、私に愛想のいい笑顔を向けてくれた。