第1章 始まりの雷鳴
「「頂きまぁす」」
手頃な岩に並んで座り、私と善逸は果汁たっぷりな桃へと齧り付く。
「…甘くて美味しい」
「そうだねぇ!姉ちゃんと2人で食べると、いつもの10倍は美味しいよぉ」
善逸はそう言いながら締まりのない笑顔を浮かべている。
「相変わらず大袈裟すぎ」
「全然、大袈裟なんかじゃないよぉ!」
そう言って笑う善逸の事を、私はとてと可愛いと思う。そして、私は、文句を言いながら、泣きながら、時には逃げ出しながら、それでも懸命に桑島さんの期待に応えようと修行を続ける善逸の姿が、姉弟子として、そして桑島さんを心から慕う人間の1人として、とても好きだと思った。
「…善逸はさ…桑島さんのこと、好き?」
善逸は咀嚼していた桃をごくりと飲み込むと、私の方に顔を向けた。
「…うん。好きだよ。凄え好き。姉ちゃんも…でしょ?」
善逸はほんの少し首を傾げ、チラリと私の様子を伺うようにそう尋ねてくる。
「…うん。凄く、好きだよ。桑島さんは…私の命の恩人でもあるしね」
きっと"命の恩人"という言葉だけでは足りない。桑島さんは、私の命を救ってくれただけではなくて、"私がそこに居たい"と思える場所をくれた人だから。
「え?そうだったの?」
「うん。…そいえば、こうやって2人でゆっくり話すの、初めてじゃない?」
「そうだっけ?なんか姉ちゃんは、不思議と昔からの知り合いみたいで落ち着くんだよねぇ。まぁ、実際には俺にはそんな相手も、家族すらいないけどね」
そう投げやりに話す善逸の様子が気になり、私はチラリと横目で善逸の顔を盗み見る。善逸は視線を下げ、どこか悲しそうな表情をしていた。
「俺、小さいころ親に捨てられてさ。子どもって普通、親に愛されて育つものでしょ?なのにその親に要らないって思われて捨てたの。ありえなくない?」
「…っ」
その言葉に、私は思わず自分の心臓あたりをぎゅっと握りしめる。
「親に捨てられた俺はさ、誰にも期待なんてされないし、必要とも思われない。そんな俺のいる場所なんて何処にもない。ずっとそう思って来たし、実際そうだったし、今でもそう思ってる」
私はこの時、初めて善逸と顔を合わせたとき、何故あんなにも不思議な気持ちを抱いたのかを理解した。
善逸は、私とすごく似ているんだ。