第4章 雪解け始まる微かな気配
「…正直に言わせてもらいますと、苦手です。理由は、音に敏感なので炎柱様の大きな声に必要以上に驚いてしまうからです」
ボソリと呟いた私の答えを聞き、
「よもや!それは気づかずにすまない!次からはなるべく驚かさないように声を抑えよう!それで解決だな!」
炎柱様はそう言って、うんうんと満足気に頷く。
「それだけではありません」
「む?そうなのか?」
「…私は、体格の良い男性が苦手です。場合によっては怖いとすら思います」
炎柱様は私のその言葉に、明らかに納得がいかないという表情を見せる。
「だが君は宇髄の継子だろう?宇髄の方が俺よりもよっぽど体格がよく思える」
「…確かに最初は怖かったです。デカいし騒がしいし。でも、天元さんは奥様方を心から大切にしているとわかったので、今はそう思わなくなりました」
「宇髄が妻を大切にしている事と、君が体格のいい男が怖いのとなんの関係がある?」
一切の遠慮もなく投げかけられる質問の数々に、何故自分がその質問に答える必要があるんだろうかと、段々と苛立ちを感じてくる。
「…それは私の個人的な事情ですので…炎柱様が知る必要のない事です」
「そうか!だが俺は知りたい!」
そう言って炎柱様は、私の腕をガシッと掴んだ。
そうやって…安易に触れてくるところも嫌なの。
「私は話したくないと言いましたよね?その手を離してください」
「離さない!」
「離してください」
「離さない!」
「離してください!」
「君も頑固だな!」
「どっちがです!?」
「よし!わかった!」
何がわかったというのか。話の通じない炎柱様に私のイライラゲージはもう爆発寸前だ。
「今日のところは諦める!だが次、任務を共にしそれが無事済んだ暁には食事に行こう!」
「そう約束すればその手を離してくれるんですか?」
「うむ!」
不毛なやり取りの数々に
もうこの場は適当に返事をし、取り敢えずその手を離してもらおう。
そう結論づけた私は炎柱様に向かってニコリと微笑み、
「わかりました。約束します」
そんなつもりなんてさらさらないのにそう言った。もはや私の中で、上官に従わなければと思う気持ちや、嘘をつくなんて良くないことだ、と思う気持ちはほとんど残っていないと言うほどに小さくなってしまっていた。