第4章 雪解け始まる微かな気配
やだ!せっかく天元さん達が私のために選んでくれた着物なのに…!
そう思いながら真剣に着物の皺になってしまった部分をパッパッと伸ばしていると、
「…え?」
目の前に急に派手な色をした頭が現れ
「ほら、ここも汚れてしまっている。森を歩いてきた故多少は仕方ないが…」
そう言いながら炎柱様は私の足元にしゃがみ込み、私の着物の裾を優しく手で払った。先ほどまで鬼と戦っていた炎柱様の着物の方が、よっぽど汚れてしまっており、着崩れてしまっているのに。
「…や…やめてください!そんなっ!大丈夫です!自分でやれますから!」
私が大慌てでそう言うも、
「俺が好きでやっている。気にしないでくれ」
炎柱様は私の言葉に聞く耳を持つ様子もなく、しゃがみ込み私の着物の裾をはらい続ける。
「…だめっ!だめですから!炎柱様の手が汚れてしまいます!」
私がそう言いながら後退しようとするも、
「こら。動くんじゃない」
自分の行動をまったく曲げるつもりがないのか、私を叱るような口振りでそう言い、後退しようとする私にそれをさせまいとしてくる。
炎柱様のその行動に
バクバクバク
と私の心臓が今日一番の大きな音を鳴らしていた。
…なんで…どうして…この人…こんなにも優しいの…?
私が勝手に抱いていた炎柱様像と余りにも違う行動の数々に、私の心は完全に置いてけぼりになってしまっていた。
「うむ!綺麗になった!」
満足げにそう言った炎柱様はスッとその場で立ち上がった。そんな炎柱様と私の距離はやはり近すぎると言ってもいい距離ではあり、戸惑う気持ちはあったものの、不思議と、以前のように嫌悪感のようなものは一切感じることはなかった。
…やっぱり…自分の勝手な思い込みで、相手を決めつけるなんて…間違ってるんだ。
今回の任務においての炎柱様の行動の数々は、私の長年から固まり続けていた固定観念を、確かに崩し始めていた。
獣道を歩いている間、炎柱様はずっと私のことを気遣ってくれていたし、鬼と対峙した時も、日輪刀を持たない私をずっと庇うようにしてくれていた。
…もっと…この人のことが知りたい。