第4章 雪解け始まる微かな気配
そんなことを考えていると
「…憎い…憎い…私を置いて…別の女のところに行ったあの男がぁ…!…女なんて…女なんて…私が全部…食い殺してやりたかったのにぃぃぃ!」
恨み言を述べているその鬼の顔が、そして身体がボロボロと燃えかすのように消えて行く。けれどもその腕が、諦めきれないと言わんばかりに私の方へと向け伸ばされている。
その姿が、父に捨てられ、私を置いて自ら死ぬ事を選んだだ母と重なって見えた。
…届きはしないのに。滑稽だな。
そんなことを思いながら呆然とその様子を見ていると、スッと私の視界が、炎柱様の炎を彷彿とさせる羽織を纏った広い背中でいっぱいになった。それはまるで、私の身を鬼から隠してくれているようで
…そんなこと…しなくたって平気なのに
そう思いながらもその行動を、"嬉しい"と思ってしまう自分がいた。
しばらくして、鬼の身体が完全に消滅すると、炎柱様はクルリと私の方に振り返り
「荒山のおかげでこんなにも早く鬼を狩ることが出来た!お館様のお見立て通り、君は本当に素晴らしい探査能力を持っている!尊敬する!」
真剣な表情で私のことを褒め称えた。なんの戸惑いもなく向けられたその賛辞に、
「…っ…そんな…私のことを褒めても…なんの得も…ありませんから…」
完全に動揺してしまった私は、目を左右に揺らし、ボソボソとそんなことを言ってしまっていた。そんな私に、炎柱様は畳み掛けるかの如く
「謙遜する必要はない!冷静で的確な指示!日輪刀を持っていない不利な状況にも関わらず自らも戦おうとするその気概!やはり俺の継子として迎えたかった!」
私のことを褒めちぎった。
…何よ何なのよ。恥ずかしいからもうやめてよ。初対面の時は筋力がないって私にダメ出ししてた癖に…そんな真っ直ぐに褒められたらどんな反応して良いか全然わかんないし。
「こら。そんなに強く握りしめていると、せっかくの綺麗な着物に皺が寄ってしまう」
「…っ…」
気がつくと、私はギュッと太ももの辺りを強く握りしめてしまっていた。慌ててそこから手を離し、パッパと自分が握りしめていた部分を優しく伸ばすようにはらう。