第4章 雪解け始まる微かな気配
炎柱様の攻撃と私の攻撃でそんな余裕もなくなったのか、奇妙な音はすっかりしなくなっており
「炎柱様、もう耳栓は取っても大丈夫です」
そう言いながら私が耳栓を取ると、
「それは良かった!慣れないせいか耳の穴がとても痛くてな!早く外したいとウズウズしていた!」
そう言って炎柱様も耳栓を外した。その声は、耳栓をつけている時の感覚が抜けないのかいつも以上に無駄に大きく、
「…聴こえているので、そんなに大声で喋らなくても大丈夫です」
思わず眉間に皺を寄せながらそう言ってしまう。
「すまない!…っお喋りは終いだな。後は俺1人でやる。荒山は攻撃が届かないところに隠れているように!」
炎柱様はそう言い残し、地面から土埃を巻き上げ、
「鬼狩りめぇ!姑息な真似をぉぉぉ!」
まさに鬼の形相という言葉がぴったりなほどに怒り狂った様子で現れた女の鬼の元へ、たったのひと蹴りで向かって行った。
「炎の呼吸壱ノ型…っ不知火!!!」
「ひぃ!」
鬼の頸が、その胴体から見事に切り離され、あれだけ苦労してここまできたのにも関わらず、隠れる間も無く、驚くほどあっという間に鬼との戦いは終わってしまった。
たったの一撃で…やっぱり…強い。
私はそんなことを心の中で思いつつ、炎柱様の立っているところまで急ぎ足で向かった。
炎柱様の元に辿り着いた私に
「怪我はないか?」
戦っていたのは私ではなく炎柱様ご自身なのに、何故か炎柱様は私に怪我の有無を尋ね、
「……はい」
それに戸惑った私は、歯切れの悪い返事をしてしまう。
…なんでそんなに気に掛けてくれるんだろう。柱から見れば私なんて、"自分の身は自分で守れ。足を引っ張るな"くらい言われても…おかしくない存在なのに。
わからない。
炎柱様といると、戸惑ったり、心が乱されたり、自分が自分らしくいられなくなりそうな、そんな風になってばかりいる気がしてならなかった。