第4章 雪解け始まる微かな気配
「あの場所に入ったら、私は常に呼吸を使って気配を探るようにします。風の音に紛れると思うので、そう簡単には呼吸の音に鬼も気が付かないはず」
「…なるほど先程の呼吸を使うのか。だが、長く呼吸を持続して、君の身体に負担はないのか?」
「戦いながらそれをやれと言われると正直言って厳しいものはありますが、ただ気配を探っているだけであれば1.2時間程度であれば問題ありません」
私の申し出に炎柱様は、
「わかった。荒山の言う通りにしよう」
そう言った。
「…ありがとうございます」
炎柱様は末端隊士と言っても過言ではない私の意見に耳を傾け、それに従ってくれると言う。私には、柱、つまり人よりも秀でた才能があり、強さもあるこの人が、当たり前のように自分の意見を聞いてくれることが不思議で堪らない。
体格が良くて、大きな声で、距離感がおかしいこの人は……一体どんな人なんだろう。
そんなことを頭の片隅で考えていると、
「よし!では俺の腕に捕まってくれ!」
「…へ?」
私の方に左肘を突き出しながらそう言った。
捕まってくれ?
「…腕を…組めって…こと…ですか…?」
「ああそうだ」
…どうしてそんなことを?
そう思いながら、炎柱様のお顔と、私の方へと突き出された左肘を交互に見ていると
「忙しないな!」
と炎柱様に笑われてしまう。
そのことがとてつもなく恥ずかしく、カァっと頬に熱が集まった。
「…っどうしてわざわざ腕を組む必要があるんです!?耳栓してても炎柱様程の方なら、視覚と感覚だけあれば一人で難なく歩けますよね!?」
恥ずかしさを隠すために、大きな声が出てしまう。そんな私に
「あまり騒ぐと鬼に気づかれてしまうぞ?」
若干眉を顰めながらそう言った炎柱様に、
あなたが突然変なこと言ってくるからでしょぉお!
と心の中で盛大に文句を言い
「…そうですね。大変失礼いたしました」
ほんの少し不貞腐れながらそう謝ると、
「わはは!君のそんな顔、初めて見たな!」
と炎柱様は何故か嬉しそうな顔で言った。