第4章 雪解け始まる微かな気配
「その奇妙な音に対して、何か策はあるか?」
そう私に尋ねてきた炎柱様に、
「…正直に言うとありません。あの音が、私たちにどんな影響を及ぼすかもわかりませんので…」
情けないながら、私が炎柱様に返せる答えはそれだけだった。
「そうか。…さて、どうしたものか」
顎に手を当て、視線を明後日の方向に向けながら思案している炎柱様に
「私、訳あって質の良い耳栓を持ち歩いています。炎柱様に、私が使っている予備の方を差し上げますので、それをつけてください」
「耳栓をするのか?だが耳栓をしてしまえば、君も周りの音が聞こえないだろう?」
他人が聞いたら無謀とも取られてしまいそうな提案を持ちかけた。
「はい。完全に聴こえないと言うわけではありませんが、聴こえ辛くなるのは確かです。でも、少しでも聴こえるのであれば、私としてはそこまで問題はありません」
なぜ私が耳栓を持ち歩いているかと言うと、理由は二つある。一つは閃光玉を使うのに、余裕があるときは使い、少しでも自分の耳に影響が出ないよう対策するためだ。そして、もう一つの理由は、言わずもがな天元さんと、雛鶴さん、まきをさん、須磨さんの情事の音を聞いてしまうことがないように、寝るときは常に耳栓をするようになったからだ。
寝起きとか、ふと目が覚めた時って、急に耳の切り替えが出来ないから…聴いちゃうことが何度かあったんだよね。
あの時の声を、音を聴いてしまった時の罪悪感、そして羞恥心はどうにも耐えがたいものがある。それは天元さんたちと距離が縮まれば縮まるほどに、より色濃いものとして私の心を激しく乱した。
そんな理由で常に持ち歩くようになった耳栓が、こんな風に役に立つとは嬉しい誤算だ。