第4章 雪解け始まる微かな気配
サッと私に近づき、
「…っ…あのっ…!」
ガシッと私の肩にその熱い両手を置き、
「今のが君の独自の呼吸か!なんという呼吸だ!?何をしたんだ!?どんな効果があるんだ!?」
私の鼻と炎柱様の鼻が触れてしまいそうなほど、私に顔を近づけてきた。
…っだからぁ!近いんです!近すぎるんです!声も大きいし圧もすごいし…怖いんですってばぁ!
そう思いながら私は、思わずすぐそばにあった炎柱様の胸板をぐぃぃっと自分から遠ざけるように押した。
「…後で、任務が無事終えたら説明します。ですから、ね?早く先に進みましょう?一刻も早く、鬼を見つけ出さないと」
苛立ちでピクピクと痙攣しそうになる口の端をグッと制御しながら、遠慮がちに(心の中では全くもって遠慮していないが)私が炎柱様にそう声をかけると、
「…確かにそうだな!」
そう言ってパッと私の肩から手を離し、
「気を取り直し…行こう!」
そう言いながら正面に向き直り、今度こそ獣道を進み始めた。
安堵の気持ちからか、私の口からは
はぁぁぁあ
と我慢しきれなかったため息がこぼれてしまうのだった。
「…止まってください」
常に周りの音を聴き、時に参ノ型で気配を探りながら花畑を目指し歩いてると、急に"、音"と表現するのには本当に微かで、言葉にして表現するのには難しいほどの微妙な違和感のようなものを私は察知した。
「何か感じ取ったか?」
炎柱様は、声を顰め、私の耳元に口を寄せるようにしながらそう言った。
「…すみません。言葉にして上手く表現することは出来ないのですが、あの木、蔦が絡まっているあの木の先から…奇妙な音と気配を感じます」
炎柱様は私のその言葉に
「俺には全くわからないが、荒山がそう言うのであれば間違いなくそうなんだろう」
そう言いながら、その木がある部分をじっと真剣な表情で半ば睨むように視線をやった。
私には、炎柱様が他者からすればなんの根拠も無い、私だけが感じ取れたその感覚に、信頼に近いような気持ちを抱いてもらえる事がとても嬉しく思えた。