第4章 雪解け始まる微かな気配
「とにかく今回の鬼は警戒心が強く、身を隠すのが上手い。俺は日輪刀を傘に偽装し持っていくが、荒山はこれから来る隠に預け置いて行ってくれ。このように晴れの日に、2人共傘を持っているのは些か奇妙にうつる。鬼に怪しまれる要素は出来るだけ無くしたい」
「……なるほど」
恐らく、この"片方しか日輪刀を持って行くことが出来ない"という状況も、私がこの任務につくことになった理由の一つだろう。
私は、例え日輪刀がなくてもクナイや爆玉で援護することが出来る。それに響の呼吸の方も、参ノ型に関しては日輪刀をほぼ必要としないので、探査に関しては問題はない。
…間違いなく、私が適任だ。
この采配に、文句のつけようはなかった。
「わかりました。鬼の気配を探るのと、後方支援は私にお任せください」
「頼りにしている!」
隠が到着するまでの間、和に荷物番として残ってもらい炎柱様と私は、いよいよ獣道へと脚を踏み入れる。
「よし。行くとしよう」
そう言って獣道に足を踏み入れようとする炎柱様に
「はい。ですが、その前に、少しだけ私に時間を下さい」
私はそう声をかけた。炎柱様はクルリと私の方を振り返ると
「構わないがどうした?」
そう言ってじっと私を見る。
「入る前に、私に可能な範囲の気配を探らせてください」
炎柱様は私のその言葉に、ほんの少し首を傾げたが、
「…では頼もう!」
そう返事をくれた。
「ありがとうございます」
私はゆっくりと目を瞑り、"聞く耳"から"聴く耳"へと意識的に切り替え
ふぅぅぅう
と一度大きく息を吐き
今度は
すぅぅぅぅう
と吐いた分を全て取り戻すように、肺に空気を取り込んだ。
響の呼吸参ノ型…音響明智!
五感の内、音と感覚以外のものが遮断され、音響明智で届く範囲の音と気配が私の中にブワッと流れ込んでくる。
土、草、木、葉っぱ、花、川、動物、虫
ここから気配を探れる範囲で、おかしい部分は…特に見当たらない。
それを確認した私は、集中するために瞑っていた目を開き
「取り敢えずはこのまま踏み行っても大丈夫です」
そう言って炎柱様を見上げると、
「…え?」
炎柱様が心なしか目をキラキラさせながら私の顔をじっと見ていた。