第4章 雪解け始まる微かな気配
炎柱様はそんな私の様子を見ながら
「君は存外不器用なんだな」
そう言って楽しそうに笑った。
「…っ普段はそんなことありません!今日は姿見もありませんでしたし、炎柱様を待たせてはいけないと焦ってしまって…」
半分本当で、半分嘘だ。
姿見がなかったのも、急いでいたのも本当だが、それ以上に、私は元々、帯を締めるという事がどちらかといえば苦手だった。それに加えて、最近着物を着る機会がなかったことも原因である。
炎柱様は、そんな私の言い訳を知ってか知らずか
「そうか!」
とそれだけ言うと、身体の向きを私から、これから私たちが歩くことになる獣道の方へと向けた。
私は、そんな炎柱様の姿を横から見ながら
男の人に帯を直してもらうことになるなんて恥ずかしいにも程があるでしょ…。っていうか炎柱様、代々鬼狩りを続けてる名家の出身なのに、自分で着付け出来るどころか、私の帯まで直せるってどういうことよ。何なのよ。何なのよぉ!
顔には決して出すことなくそんなことを心の中で思っていると、
「これからの流れを確認しよう」
そう言いながら炎柱様が再び私の方を見た。
「…はい」
だめだめ。任務に…集中。
1度だけゆっくりと瞬きし、気持ちと頭を切り替え、私は炎柱様にそう返事をし、話ができる距離まで自ら近づいた。
炎柱様は、懐から紙を取り出しそれを徐に開く。
「荒山は今回の任務の件、宇髄からどこまで聞いている?」
炎柱様のその問いに対し
「私が天元さんからもらった紙には、花畑で起こっている現象と、炎柱様と恋仲の振りをしろということと、待ち合わせの場所と時間しか知らされていません。後は、探査能力が必要な任務であると聞いたくらいです」
私はそう答えた。