第4章 雪解け始まる微かな気配
茂みの中に消えていった炎柱様の方をじっと見ていると
「着替えないの~?」
と和に尋ねられてしまい
「…うん。着替えるよ」
そう言いながら私も身を隠せる茂みの中に足を踏み入れた。
念のためと思い、目を瞑り、私がいる位置の周辺の音を聴いてみる(決して炎柱様が私の着替えを覗くと思っているわけではないが)、妙な音も聴こえなければ、気配もしない。
よし。大丈夫。
そう判断した私は、隊服のボタンに手を掛け、上から順に外していった。
隊服の上を脱ぎ終えてから、
あ、しまった。先に着物を出しておかないと。
と思い、草の上に置いていた風呂敷に近づき、結び目を解いた。風呂敷を開き、私は中に入っていた着物を改めてじっと眺める。
…本当に素敵な着物。なんとか汚さないように気を付けないと。
こんな風に、誰かから着物を送られることなんて初めてだった。じぃちゃんに、新しい着物を買いなさいとお金をもらったことはある。でも、私には女将さんのお下がりでもらった着物があったし、買ってもそんなに着る機会はないからと断り続けていた。
そうは言っても、こんな私も一応は女盛りの年頃である。自分が大切だと思い始めている人たちに、こんな素敵なものを贈られたら、嬉しくないはずがない。
こうして着物を着るのも久しぶりな気がする。
そんなことを考えながら、炎柱様を待たせないようにと、なるべく早く隊服から着物へと着替えた。
着替えが終わり、茂みから出ると、すでに着替えを終えた炎柱様の姿がそこにはあった。
…本当、髪の派手さは兎も角、人目をひく素敵な容姿をしておりますこと。さぞかしたくさんの女性に言い寄られてきたんだろうな。…ん?待って待って。そんなの私にはどうでもいいし、任務と関係ないから。私ったらなにを無駄なことを考えてるんだろう。
そんなことを考えながら炎柱様の方に近付くと、
「女性とは着るものを変えるだけでこんなにも雰囲気が変わるのだな」
若干驚いたような表情をしながら私のことを見ていた。
「…どういう意味でしょうか?」
苦手と感じる相手に、そんな顔をされながら、そんな風に言われればムッと来てしまうのも当然なわけで、にっこりと張り付けた笑みを浮かべ、私は炎柱様の顔をじっと見返した。