第4章 雪解け始まる微かな気配
炎柱様は獣道の向こうをじっと見据えると、
「報告書の情報から考えると…この先に踏み入る前に、隊服から着替えておいたほうがいいな」
神妙な面持ちでそう言った。
「要!」
炎柱様がそう名を呼ぶと、何処からともなくバサバサとかすかな羽音が聞こえてくる。
私もそれに倣い、
「和!お願い!」
自身の可愛い鴉のを呼ぶ。すると、バサバサと聞き慣れた羽音がこちらへと近づいてくる。いつものように左腕をあげ待っていると、バサッと最後に大きな羽音を立て和が私の肩に留まった。
嘴から風呂敷包みを取ると
「少し重かったのぉ~」
と開口一番に軽い苦情を言われてしまう。
「ごめんごめん。はい、ありがとう」
そう言いながらいつもしているように、その丸く小さな頭を人差し指でカリカリと掻いてあげ、更にそのあと指の背を首辺りに優しく撫でつけその働きを労った。
「きもちいい~」
そう言っていつものように嬉しそうに身体を揺らす和を緩んだ顔で見ていると
じぃぃぃぃ
音が聞こえてくるんじゃないかと思うほどの視線をすぐそばから感じた。
しまった。炎柱様もいたのをすっかり忘れてた。
緩んでいた頬をきゅっと引き締め
「では、私はそちらの茂みで着替えますので」
と”何もありませんでした”と言わんばかりの態度で私がそう言うと
「わはは!先ほどの茶屋の子どもの時といい今といい、君の変わりようは凄いな!そうして笑っていた方が良い!俺はその方が好きだ!」
「…っ!?」
そう言いながら炎柱様は、私が行こうとしている反対側の茂みへ、鴉と共に入っていった。
”その方が好きだ”
という言葉に、あの時、怖いと感じたグラリと心が揺れ動くような不思議な感覚を再び感じた。
…やだ。あの時のあれだ。だから嫌だったのに。
急に心がざわざわと騒ぎはじめ、それでもすぐ、
あんな風に”好き”だって軽く言ってしまえるなんて…炎柱様は…人たらしなんだな。
そんなひねくれた考えが私の心の揺らぎをピタリと止めた。