第4章 雪解け始まる微かな気配
「隠の報告からすると…この先だな」
木々が茂る森へと続く道に、一か所だけ不自然にたくさんの足跡が残っている獣道のようにも見える場所があった。それは、それだけ多くの恋人同士が”永遠に結ばれると噂される美しい花畑”に心を惹かれ、危険だと理解しながらも訪れたことを意味している。
「…危険だとわかっているのに、どうしてこんな場所を訪れるんでしょうか…」
私には全く理解できなかった。
そんな、なんの確証もない噂につられて来て、片方は行方知れずに、もう片方は気が狂う…本末転倒どころの話じゃないじゃん。
そんなことを考えながら、その獣道をじっと見ていた。
「正直に言うと俺にも理解し難い部分はある。だが同時に、命の危険を犯してまで永久に共にいたいと思う相手がいるというのは、実に羨ましい事だとも思う」
”羨ましい事だとも思う”
炎柱様の意外過ぎるその言葉に、私は思わず目を見開き、その猛禽類のように切れ長でありながらも、大きな目をじっと見てしまう。
そんな私の視線が気になったのか、炎柱様は首を傾げ
「どうかしたか?」
と、私に問うた。
相手を恋い慕うばかりに、命すら捨てる行為をする。私にはその行為が、酷く愚かなことに思えてならなかった。勝手に、炎柱様も同じような気持ちを抱いているとそう思っていたのに、そうでは無かったという事実に、ただただ驚きを隠せなかった。
その時ふと、天元さん、そして雛鶴さん、まきをさん、須磨さんの事が頭に浮かんだ。
今回の件とは少し違うけど…あの4人なら、きっと、自分の命を投げ打ってでも、お互いを守ろうとするんだろうな。…それを、愚かだなんて…思わない。だったら、今回のこの恋人たちだって…愚かなんかじゃ…ない…。
むしろ、それがわからない自分の方が愚かなのかもしれない。
そう思った。
「…なんでも、ありません」
そう言ってほんの少し目線を下げた私に
「そうか!」
炎柱様は、それ以上何かを聞いて来ることはなかった。