第4章 雪解け始まる微かな気配
「みなさんありがとうございます!」
天元さんにも聞こえるように、普段よりも大きめな声でお礼を述べる。念のためにと常に持ち歩いている風呂敷に、丁寧に頂いた着物を包み、
「それでは、少し早いですが任務に行ってきます」
私は勢いよく立ち上がり、
「「「いってらっしゃい」」」
綺麗に重なった雛鶴さんまきをさん須磨さんの声を聴きながら、駆け足で玄関へと向かった。
玄関から外に出ると、バサバサと聞き慣れた羽音が近づいて来る。左肩をスッとあげると
「鈴音〜。また任務に行くんでしょう?働き者だねぇ」
そんな呑気なことを言いながら私の肩に和が留まった。
「そうなの。…お館様直々に、"特別任務"ですって…」
しかもあの炎柱様と2人で。しかもしかも恋仲のふりをして。
「…不安だなぁ…」
そう言いながら和の丸い頭を人差し指でカリカリしてあげると、和はその身体を気持ちよさそうに左右にゆっくりと揺らしながら
「大丈夫〜大丈夫〜。なにせ私の鈴音だからぁ。なんの心配もいらないの〜」
いつもの少し外れた調子でそう言った。そのなんの根拠もない呑気な言葉に
「…ふふっ。なにそれ!…でも、ありがとう」
肩に入ってしまっていた余計な力が、フッと抜けたような気がした。
「よし!じゃあ行こうか」
「は〜い」
和はそう言うと、バサっと再び羽音を立て、今度は私の肩から空へと飛び立った。
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待ち合わせの甘味屋には徒歩で2時間ほどで到着した。
陽ののぼり具合から考えると、まだ炎柱様との待ち合わせ時間には少し余裕がり、甘味屋の中をチラリと確認してみるも、そこにはまだ炎柱様の姿は確認できない。
やったぁ!せっかくだし、お団子食べて待ってよっと。
そう思い至った私は、
「すみませーん。餡子のお団子二本と、お抹茶をひとつお願いします」
失礼かなと思いつつ、首だけ店内にお邪魔し声を掛ける。
「はぁい。ただいま」
優しげな店員さんの返事をもらい、私は再び外に出ると大きな日避け用の赤い傘の下にある長椅子に腰掛けた。