第4章 雪解け始まる微かな気配
「あとは、これも。持って行きな!」
そう言いながらまきをさんがスッと私の方に差し出したのは、先程からまきをさんが手にしていたたくさんの爆玉達だ。
「…こんなにたくさん。作るの、大変じゃなかったですか?」
「まぁ簡単じゃなかったね。しかもそれ、天元様に言われて、鈴音が扱いやすいように改良してあるんだよ」
そう言ってまきをさんはいたずらな笑みを浮かべた。まきをさんはそれらの言葉を心なしか声量を抑えるように言っており、私はどうしてわざわざ声を潜める必要があるのだろうかと首を傾げる。そのまきをさんの言葉に続くように
「天元様は素直じゃないだけで、ナオちゃんの事をすごく可愛がってるんです!だからばったばた鬼を倒して、ちゃぁんとここに帰ってきてくださいね」
須磨さんはそう言ってにっこりと笑った。天元さんが、まさか自分のことを可愛がってくれている等と思ってもみなかった私が、"信じられない"と言わんばかりにほんの少し眉を顰めていると、
"おい須磨!余計なこと言うんじゃねぇ!"
どこからともなく天元さんの声が聞こえ、
え?天元さん…どこにいるわけ?
そう思いながらも、そのどこからともなく聞こえてきた天元さんの"余計なことを言うな"という言葉が、"天元さんが私のことを可愛がってくれている"と言う事を、肯定しているかのように感じ、私の頬はすっかりと緩んでしまうのだった。
最初はあんなにも継子になるのが嫌だったのに。今はもう、天元さんが、雛鶴さんが、まきをさんが、須磨さんがいるこの家が、私にとって、帰ってくるべき大切な場所になっていた。じぃちゃんのあの家で過ごしていた時は、じぃちゃん、そして善逸さえ私のことをわかってくれていれば、他はどうでもいいとすら思っていたのに。
…自分のことを思ってくれる人がいるって…どうしてこんなにも心があったかくなるんだろう。
受け取った着物と爆玉をギュッと胸に抱き込みながら、そんなことを考えていた。