第4章 雪解け始まる微かな気配
「…これは?」
着物を渡される理由がわからず、私は首を傾げ、雛鶴さんにそう尋ねた。
「鬼の潜んでいる森に入る前にこれに着替えるようにと天元様が言っていたわ。一人で着れるわよね?」
「…帯を締めるのが…少し苦手なんですけど、多分大丈夫です。でもそもそも、こんな綺麗な着物、任務でお借りすることなんてできません!汚れてしまったら大変です!」
そう言って、私が着物を受け取ることを拒否るすも
「受け取ってちょうだい。この着物はね、天元様から鈴音へ、階級がふたつも上がったお祝いの意味もこもってるの」
と、雛鶴さんがにっこりと微笑みながら言った。
「…っ…そんな…こんな素敵なもの…お祝いだなんて…っ…私がもらっていいわけが…」
そうもごもごと言いながら私が着物を受け取らずにいると
「こら鈴音!天元様からの贈り物を拒否するなんてあたしが許さないよ!」
まきをさんがそう言いながら居間に入ってきた。その手には、爆玉がたくさん入っていると思われる袋が握られている。
「あたしたちも一緒に選んだんだ。受け取ってもらわないと悲しいじゃないか」
まきをさんは、先程"許さないよ"と言った時と比べ、おだやかな口調でそう言った。
「…まきをさん達…雛鶴さんも、須磨さんも、私のために一緒に選んでくれたんですか?」
私がそう尋ねると、
「ええ」「はい!」
と雛鶴さんと須磨さんが同時に答えた。
こんな素敵な着物を…みんなで私のために選んでくれたの?
確認するように雛鶴さんの顔をチラリと見遣ると、雛鶴さんがゆっくりと一度頷いた。私は嬉しさの余り、腕が震えてしまいそうになるのを堪えながら、雛鶴さんの手からそれを受け取った。
手に取ったそれを落とさないように左手で持ち、右手でスッとひと撫でする。
「…嬉しい…雛鶴さん、まきをさん、須磨さん…ありがとうございます」
この場にはいないが、天元さんも。
嬉しさを噛み締めるようにゆっくりとお礼の気持ちを述べると
「きっとよく似合うわ」
「たくさん着るんだよ」
「これでいつでも逢引できますね!」
と三者三様に言葉を返してくれた。