第4章 雪解け始まる微かな気配
目を開け、天元さんの足音がする方向へと顔を向けると、
「まぁた鳥の鳴き声でも聴いてんのか?相変わらず地味地味な趣味だ」
天元さんが呆れた表情を浮かべながらこちらに近づいてくるのが見えた。
「シジュウカラ。知ってます?すんごくかわいいんですよ。たまに和と一緒にいるんです。自分よりも大きな鴉を怖がらないなんて、変わった子ですよね」
「へぇへぇそうかい」
そう興味のなさそうに返事をしながら、天元さんは私と同じ目線になるようにしゃがむと
「お前に、お館様からの"特別任務"を言いつける」
私の目を真っ直ぐと見据えながらそう言った。
「…っ…お館様…ですか?」
天元さんの口から発せられた、全く予想していなかった"お館様"のお名前に、一気に自分の中で緊張がグッと増した。
「その…特別任務の内容は?どうして…わざわざ私なんかに?」
どうにも気持ちが落ち着かず、カチャカチャと意味もなくクナイをいじってしまう。
「まぁ、落ち着けって。その任務の内容は……」
告げられたその内容に、私は逃げ出したい気持ちでいっぱいになった。
天元さんが私に告げた特別任務の内容は、
"恋人同士で訪れれば永遠に結ばれると噂される美しい花畑がある。そこでは女性だけが必ず姿を眩ませ、男は気が狂ってしまったかのようにその花のことばかりを語り続ける。炎柱煉獄杏寿郎と共にそこへ行き、調査を進め、鬼を発見次第滅殺せよ"
と言うものだった。
恋人同士で訪れるってことは…鬼を欺くために炎柱様と、恋仲のふりをしろってことでしょ…?なんでよりによって…私なのよ。
そんなことを考えている私の眉間には、グッと深い深い皺が刻まれる。
「…お前一応女だろ。その顔はどうかと思うぜ」
そう言いながら天元さんは私の眉間に刻まれた深い皺に両親指を当て、グイーッと伸ばす。
「っ痛いです」
私は身体を限界まで逸らし、眉間を強引に伸ばしてくるその手から逃れた。
「…もぅ。自分の馬鹿力を考えて下さい…」
サスサスと自分の眉間を右手で撫でながら、天元さんを睨みつけると、
「へいへい馬鹿力で悪かったな」
ちっとも悪いと思ってなさそうな言葉が返ってきた。