第1章 始まりの雷鳴
我ながらいくら苦手なタイプの人間だからと言って失礼にも程がある、とは思ったものの、自分の心の平穏を保つため、そして修業に集中するためと言い訳をつけながら、私はその手を離した。
この時の私は、自分がこの先、この男を”殺してやりたい”と思う程に憎むことになるとは、知る由もなかった。
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それから更に4か月ほど経った頃。
桑島さんに獪岳がここにきた時と、全く同じように聞かれ、
またこの流れか。今度は…どんな人が来たんだろう。
と思いながら外へ出ると、
「えぇぇぇ!?女の子がいるの!?こんなかわいい女の子と暮らせるの!?ここって天国!?天国なのぉ!?」
きったない声。うるさ。
私よりもおそらく年下らしき、なんとも騒がしい男の子(男の子ってほど年下ではないのかな?)の姿がそこにはあった。
男の子は桑島さんに腕を引っ張られ、辛うじて耳を塞ぐのをこらえている私の前に連れて来られる。
「こ奴は新しく弟子に迎える我妻善逸じゃ」
「初めましてかわいいお姉さん。俺は我妻善逸。以後お見知りおきを」
先ほどまでの緩み切った表情と汚い高音から一転し、無理矢理作ったようなきりりとした表情とその口調が面白すぎて
「…っふふ…」
笑いを堪えることが叶わず
「…っ笑ってごめんなさい…あんまり面白いからつい」
私は半笑いになりながら
「私は荒山鈴音。君よりほんの少しだけ先輩に当たるかな?わからないことがあったらなんでも聞いてね」
気づくと自ら自然と手を差し出し、握手を求めていた。
耳を塞ぎたくなるような汚い声の持ち主だけど…なんだろう。この子は不思議と…仲良くなれる…ような気がする。
獪岳と初めて顔を合わせた時の印象とは真逆の気持ちだった。けれのも何故自分がこんなにも、この"我妻善逸"という年下の男の子に警戒心を抱くことがなかったのかはわからずにいた。
「っよろしくお願いしまーす!」
ぴーんと右手をまっすぐに挙げ、だらしない笑顔を浮かべるその表情に再び笑いが込み上げる。
「うん。よろしくね」
この時からきっと、善逸は私にとって、桑島さんと同じくらい、心から信頼できる存在だったのだと、今ならよくわかる。