第1章 始まりの雷鳴
「私は大丈夫です。苦手だといっても男性全てがって訳じゃないし、折角弟子入りしたいって人が来てくれたんです。私の個人的な都合で断るだなんて…そんな事、あったらいけません」
その人がもし私より才能が有ったら?その人がもし私より優秀な人だったら?育手である桑島さんから、そんな貴重な人材を遠ざける権利、私が持ち合わせているはずがない。
「…わかった。鈴音がそう言うのであれば、わしはその言葉を信じよう。じゃが部屋はお前さんが使っている場所からそやつ部屋は1番遠くする。お前さんさえよければ、事情も話しておこう」
「いいえ。部屋はお願いしたいですが、話すのは…必要があれば自分できちんと話をします。心配してもらって…すみません」
桑島さんはそう言って謝る私の頭にポンと手を置き
「謝る必要はない。お前はわしの大事な孫…じゃなかったわい。わしの大事な弟子じゃからの!」
桑島さんのその言葉が嬉しくて、そして同じくらい恥ずかしくて、私は下を向きもじもじと自分の手をいじるのだった。
「こ奴の名は獪岳」
初めて顔を合わせ、私は感じてしまった。
この人…苦手かもしれない。
「獪岳です。よろしくお願いします」
野心の強そうな目。見た目よりも気持ち低い声。
私の苦手とする、”大柄で声の大きい男性”という条件には当てはまりはしていないものの、なぜがあの大嫌いな父親と似ていると感じてしまった。けれども同時に、この獪岳という男は、私よりも才能が有り、強い隊士になれるんだろうなと漠然とした何かも感じた。
桑島さんは…きっとこの人を鍛えることを楽しみにしている。だって顔があんなにも生き生きとして…うれしそう。まぁ私は、女だし、頼み込んでようやく弟子にしてもらった身だし。…比べても仕方ない。
そんなことを考えているとはおくびにも出さず
「荒山鈴音です。これからよろしくお願いします」
そう言いながら愛想の良い作り笑いを浮かべ、軽く頭を下げた。
「…よろしく、お願いします」
そう言って差し出された手を、取らないわけにはいかず、作り物の笑顔を貼り付けたまま私はその手をとった。
修業は一緒にするだろうけど…普段はなるべく、”聴いて”近づかないようにしよう。それならきっと、何も害がおこることはない。