第4章 雪解け始まる微かな気配
私は帰りの道すがら、自分の心の変化にとても驚いていた。
苗場さんに…頭を触られても嫌だと思わなかったし、話をしていて…一度も嫌だと感じることがなかった。
そんな風に思えるようになった自分に、"私も少しずつ変われているんだ"と、喜びに近い感情を抱き、自然と音柱邸に向かう足も早くなったのだった。
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音柱邸の玄関をくぐる時に
「ただいま戻りました」
最近ではそう言うのも当たり前のことのように感じられるようになっていた。任務から帰ってきて1番最初にすることは、いつも同じ。玄関をくぐり、無事戻ったことを伝えるように帰宅の挨拶はするが、そのまま母屋に入らず踵を返し、私が住まわせてもらっている離れへと向かう。
充てがわれた離れの戸を開き、草履を気持ちばかりに揃えて脱ぐと、中に入る。ベルトに刺していた日輪刀をコトリと一旦座卓の上に置き、替えの隊服が入っている箪笥を開け、それを取り出す。そしてその下にある引き出しから大きめの手拭を取り出し、隣に置いてある下着も一緒に手に取り手拭で包んだ。
そして再び座卓に置いた日輪刀を手に取ると、離れから母屋へと向かう。
今度は玄関からではなく、勝手口から母屋に入ると
「おかえり鈴音」
「雛鶴さん。ただいまもどりました」
昼食の準備を始めているのか、もしくは遅い朝食の準備をしているのか雛鶴さんが、お勝手で野菜を切っていた。
トントントントン
まな板と、雛鶴さんが手にしている包丁が当たる小気味好のいい音に耳をすませ目を瞑る。
…いい音。
私はこの音が好きだ。音の響きはもちろんの事だが、雛鶴さんの美味しいお料理の味や、みんなで食卓を囲む穏やかな時間を自然と思い出すから。
そんなことを考えながら、雛鶴さんの手元をじっと見ていると、
「そんなに見られると、やり難いんだけど」
雛鶴さんが眉を下げ、困ったように笑いながらそう言った。
私は、
「すみません。つい」
えへへと頭を掻きながら、雛鶴さんに謝る。
「まったく。あなたのその癖も困ったものね。湯を浴びて来るんでしょう?早く行ってきなさい」
優しく雛鶴さんにそう諭され
「はい!」
返事をし、私は湯殿へと向かった。