第4章 雪解け始まる微かな気配
音柱邸に来てから2ヶ月ほどが経過した。それはつまり、私が天元さんに稽古をつけてもらうようになってから1ヶ月の時が経過したことを意味し、その1ヶ月で私の階級は己まで上がっていた。階級が己まで上がると、以前と違い、私の意見を聞いてもらえない、なんてことも減り、かなり任務がしやすくなった。けれども、"階級が上がった"こと以上に、効果的だったのは、周囲から"音柱の継子"という目で見られるようになったからと言う要因が大きい。
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「荒山!久しぶりだな!」
「苗場さん!」
鬼の頸を無事切り終え、事後処理の手伝いをしようと隠しの到着を待っていると、現れたのは、あの日、足に怪我を負い、隊士は辞め、隠になると言っていた苗場さんだった。
目元しか出ていないその姿に、一瞬誰か分からず戸惑いはしたものの、聴き覚えのある声に、すぐその目元と声の主が一致した。
「お久しぶりです。あれから足の調子はどうですか?」
私がそう尋ねると、
「悪くはないな!まぁ、厳密に言えば、隊士を引退する怪我を負ったくらいだから、良いとは言えないんだがな!こうして…なんとか隠としてやらせてもらってる」
そう言いながら、あの日怪我を負ってしまった足で、力強くドンドンドンと地面を踏みしめた。
「…そうですか。それは良かったです」
その力強く地面を踏みしめる音に、あの日感じた、"もっと自分がきちんと出来ていれば"、と言う如何ともし難い気持ちを軽くしてもらったようなそんな気がした。
「おう!余計な心配かけたな!…っと、ところで荒山。俺はお前はてっきりあのまま炎柱の継子にでもなるのかと思ったら…どんな経緯で音柱の継子になったんだよ」
苗場さんは報告書か何かを書いているのか、手に持った紙と、周辺の様子をちらちらと見比べながら、そんなことを私に尋ねてくる。
「……まぁ…色々ありまして」
言葉の通り色々ありすぎて、説明するのが面倒くさい私は、そんな適当な返事をしてしまった。