Volleyball Boys 3《ハイキュー!!》
第5章 ★はないちもんめ:角名
【○○○じゃ分からん】
角名くんが言っていたように、稲荷崎の男子バレー部は本当に強かった。初めての公式戦はインターハイ予選、ずっと戦績がいいから、地区予選はなくていきなり県予選。ベンチに入っていたけれど、あれよあれよと優勝し、次の舞台は全国大会になった。
その全国大会はフルセットの大激戦の末、惜しくも準優勝という結果に終わったけれど、3年生は年明けの春高まで残ると言ってくれたし、次は優勝もぎ取ってやると、団結した。
全国遠征から帰った、その、夜だった。
『…は……?
いや転勤て、まだほんの数ヶ月やん……』
両親から伝えられた、父の転勤。もう面倒だから、私だけ置いてってくれと頼むが、まだ高校生で一人暮らしをさせる訳にはいかないと。
そうやって父の仕事で連れ回されて、私がどんな思いをしてたか知らないくせに。そう毒を吐けば、2人は傷ついたような顔をした。いちばん辛い思いしてきたの、私なんですけど。友達はできてもすぐ疎遠になるし、親友なんてひとりもいない。
バレー部のみんなと、角名くんが、また遠くなってしまう。
そう思ったら悲しくて、辛くて、でも何も出来ない自分が惨めで。部活のジャージのまま家のドアを飛び出していた。
『角名くん……会いたい、すな、く…っ』
がむしゃらに走って、好きな人の名前を呼ぶ。スマホだけ持って飛び出して、でも行く宛てなんて無いから。結局、さっき解散したばかりの高校に戻ってきてしまった。
角名くん、寮だから出て来れないよね。そう思いながらも、通話ボタンを押してしまう。5回鳴らして、出なかったら諦めよう。そう思ったのに、角名くんはワンコールで出た。
「陽菜乃?」
付き合ってからしばらくして、名前で呼んでくれるようになった角名くん。私は相変わらず角名くんって呼んでるけど、そっちのタイミングでいいよって笑ってくれた。
その角名くんの声が、いまは苦しい。
『一瞬でいいんだけど、下まで来れる?』
「は?え、ちょっと、待っ…」
ガタガタと、電話の向こうで焦っているであろう角名くんの音がする。ダダダと猛スピードで階段を降りると、スマホ越しじゃない、角名くんの声がした。