Volleyball Boys 3《ハイキュー!!》
第4章 失恋はプロローグ:菅原
カシュ、とプルタブを開ける音がする。私は缶チューハイで、菅原は缶ビールで何度目かの乾杯をする。
どっこいしょ、と言いながら菅原が座るから、おじいちゃんみたいって言ったら、すごいしわがれ声でツマミをよこせとか言うから、大爆笑。仕方が無いので冷凍の枝豆を解凍し、菅原おじいちゃんに出してあげた。
気まぐれにテレビ──と言ってもアンテナに繋がってないからただのモニター代わり──の画面をオンにし、なんとなく流行りの動画サイトの動画を垂れ流す。
「あ、俺この人たち好き」
『わかる、いいよね』
「でも俺はこっちのが好き!」
『ひょっほ!』
むにゅ、と両手で頬っぺたをもちもちと遊ばれ、ぷにぷにで柔らかくて可愛いと笑う。お酒のせいで少し上気した菅原は、何だかちょっぴり色っぽく見えて、ふいと目を逸らした。
なんで目逸らすのさ、と私の視界に入り込むようにして菅原が顔を出す。一度逃げてしまうと恥ずかしさが勝ってしまうもので、追いかけっこみたいにぶんぶん顔を振り合う。
そうしているうちにバランスを崩し、私は菅原もろともソファの肘置き目がけて後ろに倒れた。
途端にげらげらと笑い出すふたり。箸が転がっても笑う年頃、なんて言うが、私たちは自分が転がったら笑うらしい。
『はぁ、おっかしぃ』
「世都笑いすぎだべや〜、まぁ俺もだけど」
『ふふ、だって、ふ、ははっ、
お酒飲みたいから、避けてくーださい』
「俺はまだ、このままがいいな」
世都のことひとりじめしてるみたい、そう言いながら私を抱き起こし、それからぎゅううと抱き締める菅原。アルコールで上がった体温、少しのお酒の匂いと、柔軟剤と、ちょっとだけ菅原の匂い。
付き合ってないのに、とか。そんな言い訳じみた言葉が脳内に浮かんでは、どこかへ散っていく。今はまだ、というか今だからこそ、菅原の隣にいられる気がして。このぬくもりを、手放したくなくて。
あの日言えなかった分の、3年分の好きを伝えるつもりで、菅原の背中にそっと手を回す。菅原がぴく、と肩をふるわせ、それからさっきよりも抱く力を強くする。
「世都、俺のこと好き?」
そんなの、あの日から変わらない。
ずっと、ずっと忘れられなかった。忘れたくなかった。
『好きだよ、菅原』
今度こそ、間違えないように。