Volleyball Boys 3《ハイキュー!!》
第4章 失恋はプロローグ:菅原
しばしの沈黙。遠雷と雨音が響き、ぼんやりと明るい部屋に、時折雷の光が差し込む。こういう時、キャーコワイ、とか言って抱き着いた方がいいのだろうか。
そして、菅原はぽつりと言った。
「なぁ、変な事言うけどさ」
『うん』
「世都が好きになったの、
俺だったらよかったのにな、って」
『うん……………ん、え、あ、えぇ!?』
一瞬流れで頷きかけて、びっくりして慌てて聞き返す。そんな、今この人なんて言ったんだ。私が、誰を好きだったら、良かったって。心臓が急に早鐘を打ち、直接脳内に響いてるんじゃないかってぐらい、自分の心音が大きく聞こえる。
さっきふざけてイケナイコト言ってきた誰かさんに仕返し、といたずらっ子のように笑う菅原。冗談は程々にしなさいと握った手を持ち上げて右手の甲をぺちんと叩けば、そのまま両手ごとぎゅっと握られる。
「あのさ、俺、そんなに軽くないよ、
めんこいと思ったから世都にはそう言うし、
今だって、俺なら絶対泣かせないのに、って」
『す、すが…』
「世都もドキドキしてると思うけど、
俺もすごいんだよ、ほら手貸してみ」
握ったてを解き、私の右手を捕まえると、自分の心臓の辺りにぺたりと触れさせる。昼間は縋り付いて泣いたその胸板は、ちゃんと鍛えられた男の子で、手のひらの下に初めての感触。ドッドッドッと走るそれは、私のと同じかそれより早くて。
あぁ、菅原は本気なんだって、知った。
「俺、世都のこと、好きだよ」
掴んだ右手をぐんと引っ張られ、私は菅原に倒れ込む。嫌だったら殴って突き飛ばして、って言われたけど、とてもそんなことは出来ない。だって、菅原の声が震えてる。
「今はまだ、答えは出せないと思うけど、
いつになってもいいから、いつか返事欲しい」
それまで彼女作らないから。
ぎゅ、と抱きしめられ、両手を背中に回そうとして、やめる。ここで私が菅原に甘えたら、ダメな気がした。自分のことを好きな人といるのは落ち着くけど、自分からも好きじゃないと意味が無いから。
『私、ずるいから、
卒業してから返事するかもよ?』
「何年でも待ってやるさ」
もう1回、好きだよ、って菅原は言って離れると、おやすみを告げてリビングに戻った。
私の胸に、消えない火をくすぶらせたままにして。