Volleyball Boys 3《ハイキュー!!》
第4章 失恋はプロローグ:菅原
誰かがいる空間とは、こうも心地良いのか。
ドアひとつ挟んで、隣の部屋、私がわがままを言って、そのドアすら空いている。寝返りを打った時の布団が擦れる音、控えめな咳払い、そんなのが聞こえるだけなのに、なぜか酷く安心した。
布団の中、毛布にくるまり考える。私はただ、誰かの温もりに触れたかっただけなのかもしれない。仕事の忙しい母は、物心ついた時から不在がちだったから。それで、嶋田さんに惹かれちゃったのかな、お父さんに重ねた部分も、あったかもしれないな。
『……っ、はぁ…』
別に、自分を不幸だと思ったことは無いけれど。不意に、すごい虚無感に襲われることならあったから。そういう日も、こうして少しだけ寝る間際に泣いた。
本降りになった雨は止む気配もなく、むしろ強まるばかり。時折遠雷が聞こえて、びくりと肩が跳ねる。雨音よりすぐ側で、ぺた、ぺたとフローリングを裸足で歩く時の特有の音がした。開いているドアを、控えめに躊躇いながらノックする音が、静まり返った夜の部屋に2回響く。
「世都、大丈夫か、寝れない?」
『あ、スガ、起こしちゃった、ごめん』
「んーん、俺も寝付けなかった
なぁなぁ、そっちいってもいい?」
さっきは、理性がうんたらって散々言ってたくせに。心の中でそうぼやきながら、出した返事は“こっち来て”だった。
体を起こし、 ベッドから足を下ろして腰掛ける私の横に、人ひとり入るには少し狭い位の間隔を空け、菅原も座る。リモコンを操作して少し暗めのライトを付ければ、昼間とは違う、少しぎこちない顔をした菅原。
「なんか、ごめん、やっぱ俺緊張してるかも」
女の子の部屋なんて初めてだから、と恥ずかしそうにするから、私も男の子呼んだの初めてだよ、と答える。
意を決して、口を開く。
『ねぇ、菅原』
「ん?」
『手だけ、ぎゅってしたい』
「こんなんでいいなら、なんぼでも貸すよ」
はいどうぞ、とベッドの上に置かれる手の上に、自分の左手を重ねる。指を指の間に挟め、菅原はぎゅっと握る。
おっきくて、あったかくて、やさしい手。
菅原が、優しいから。つい、甘えすぎてしまう。良くないと分かっていても、自分の欲しい温もりをくれるから。
あぁ、失恋直後に揺らぐ、自分が嫌になる。