Volleyball Boys 3《ハイキュー!!》
第4章 失恋はプロローグ:菅原
そんなカッコイイお兄さんこと菅原は──そのあと自分で紳士的で世界一優しいって付け加えて──親切なことに、そんなに暗くもないのにわざわざ家まで送ってくれた。
母とふたりで暮らしているアパートのドアに鍵を差し込んだところで、朝家を出るギリギリに母親に言われた言葉を思い出す。
『あ、ねぇ、今日まだ時間ある?』
「あるっちゃあるけど」
『じゃあ晩ご飯、食べてってよ』
「えっ、ででででででーとのおさそい!?」
『いや、違うけど...』
とりあえず上がって、と半ば強引に菅原を玄関に押し込む。はいはい脱いでと急かすようにスニーカーを脱がせ、冷蔵庫の前まで連れてくる。白い扉を開ければ、そこには2kgはあろうかと言う和牛のパックの山、山、山。
『実はお母さんが職場のビンゴで当てたんだけど、
冷凍できないから早く食べちゃわなきゃでさ』
友達連れてきてすき焼きでもしなさい、って言われてたんだよね、メンタル死んでて全然忘れてたけどさ。
ちら、と冷蔵庫を覗き込む隣の菅原を見遣る。ごきゅ、と生唾を飲み込む音が聞こえ、これはかかったなしめしめとほくそ笑む。
『どう、これでもまだ帰る?』
「さぁ野菜切るべ!
俺全部やるから世都座ってて!」
『わぁすごい俄然やる気出してる』
じゃあまず手洗いしよう、と交代で手を洗って、菅原には白菜やネギ、豆腐を切ってもらい、その間に私は鍋の準備をしておく。
カセットコンロをリビングのローテーブルに設置し、具材とタレをこれでもかと詰め込んだ鍋を火にかける。お豆腐はしみしみが美味しいけど、煮崩れても困るので、お肉を入れるタイミングで一緒に入れることにした。
程よく霜の入ったお肉を鍋に入れ、ほんの少し赤みが残るぐらいでといた卵の器によそう。炊きたてホカホカふっくらご飯と頬ばれば、もう絶句するほどの美味しさ。
「やぶぁい、おれ、生きててよかった」
『そりゃ良かった』
誰かと一緒に食べるご飯は美味しいからね、と言いながらしらたきを口に入れれば、お母さんはと聞かれる。基本夜勤だからいないよと答えれば、それは夜寂しいなともごもごお肉を咀嚼しながら菅原。
寂しい、のかな。
もう慣れちゃったからわかんないや、そう言えば、菅原は少しだけ寂しそうな顔をした。